グットイブニング・トウキョウ【あほの坂田】 (ページ13)

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勉強道具をリュックに突っ込んで、黒いスニーカーを履いて家を出る。

「いってきまーす」

いつものバス停とは道路向かいから、逆方向にいくバスに乗る。

坂田くんのいないバスに乗るのは久しぶりのことだ。

土曜日ということもあってか、バス内はがらんとしている。
いつもとは逆方向に向かっていくので、ちょっと変な感じだ。

いつもの通路側の席に座ると、しばらくしてバスはゆっくりと出発した。

信号を左折し、バスは住宅街を流れるように進んでいく。

私は日本史の教科書を出して、テスト範囲のページを開いた。
まずは旧石器時代。遺跡の名称や埋葬方式など、テスト出題されそうな部分にマーカーで線を引いていく。

縄文時代に入ったところで、バスが止まった。
私は教科書に目を落としたまま、プシュー、と扉が開く音を聞いていた。

車内に入ってきた足音から、1人だけだとわかる。

「あ、坂田くん」

教科書に影がさして顔を上げると、見慣れた赤い頭がすぐ近くにあった。

「Aさん、おはよ!」

「おはよう」

私は挨拶をしながら窓際の席に詰めると、彼はその隣に腰を下ろした。

いつもとは逆の座り順に、すこし違和感を感じる。

彼はいつもの制服と違って、今日は黒のTシャツに白のパーカーを羽織っていた。

シンプルな組み合わせなのにオシャレに見えるのは、彼自身の素材がいいからだろうか。

モノトーンの組み合わせが、坂田くんの派手な赤髪を一層際立たせている。

いつもとは違うんだと目に見えて言われた気がした。

私はいつも以上に緊張してしまって、ロボットみたいな動きで坂田くんから顔を背けた。