プロローグ ページ1
風が強い日だった。その日は始業式で、私は高校1年になった。
新しい校舎の前には大きな掲示板が立てられ、そこには新しいクラスと担任の名前が張り出されていた。
私はC組で、同じクラスの欄には知らない名前ばかりが並んでいる。
私は、ローファーの踵でそれを踏みにじりながら教室へと向かう。緊張で、頭は冴え渡っている。
1年C組と書かれた札を見ると、身体が硬直した。
私は靴をみながら、深呼吸を繰り返した。
いくら繰り返しても呼吸は正常にはならないので、私はあきらめて顔を上げ、ドアを開けて教室へと踏み込んだ。
そこはすでに、興奮気味に言葉を交わしあう新しいクラスメイト達で占領されていた。
その中からあぶれないうちに、急いで自分と同じような風貌の女の子を探さなくてはならない。
こういうのは最初が肝心で、同じ匂いのする女の子同士で早くつるまないと、後々大変なめんどうを抱えてしまうと知っていたからだ。
窓際にはいかにも賑やかそうな集団がいて、そこには見覚えのある赤い頭もあった。
坂田くんだった。
同じ中学だったが、1度も言葉を交わしたことはない。
彼はクラスの中心的人物で、普段行動するグループも仲のいい人も違ったので、話す機会もなかったのだ。
今年もきっと、そうなるだろう。
そのとき、坂田くんとばちり、と目が合った。あわてて目をそらすと後ろから声がかかった。
「Aちゃん、おはよ」
振り向くと、去年までの美化委員会で何度か話したことのある女の子が立っていた。
私は、知った顔にほっとして表情を緩めた。
「あ、ともちゃん。よかった、同じ高校だったんだ」
「本当、教室に来たら誰も知ってる子がいなくって、どうしようって思ってたの。Aちゃんがいてくれてよかった」
「ね、先生来るまで一緒にいていい？」
「うん、明日からお昼も一緒に食べようね」
私はとりあえず1人、知っている「大人しい女子」を捕まえたことにほっとしていた。
ひとまずこの騒がしい教室の中に居場所を見つけることが出来たと思うと、こわばっていた肩の力が少しだけ抜けた。
私達は鞄を並べておき、「春休み何してた？」などと他愛ない会話をした。
「……あ、坂田くん。この高校だったんだ」
何気なくともちゃんの視線が坂田くんにいって、なんとなくまた身体が緊張した。
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作者名：りひと
| 作成日時：2019年11月12日 17時
