夢の中 ページ21
なにかがいる。
この先に、得体の知れない何かが。
廊下のいちばん突き当たりに先程までの講義室よりも大きな扉があった。ぐっと扉を押してみると、それはギギギ、と鈍い音かを立てて開いた。中を覗くと、暗闇の中に人が立っているのが見えた。
後ろ姿だ。けど、それが誰かを知っている。でもその人物がここにいるはずがない。センラは何度か瞬きをして、自分の見間違いだろうと思った。そして、
「…………A？」
とおそるおそる声をかけた。その人物が、ゆっくりと振り返る。その顔に、センラは言葉を失った。喉がカラカラだ。この部屋だけ、時が止まったような気がした。
「………ナナ？」
「センラ………？」
そうだ。ナナだ。センラが間違うわけがなかった。Aは自分のことを「センラさん」と呼ぶ。「センラ」と呼ぶのはナナだ。
ナナはセンラの姿をみとめると、ぱっと顔を輝かせた。
「センラ……よかった。私、ひとりで心細かったの」
彼女は小走りにセンラの元に駆け寄ってくると、そのまま抱きついてきた。彼女の安心したような声音に、センラはどぎまぎしてしまった。
心臓がうるさい。身体中の血液が顔に集まってくるみたいだ。
どうして彼女がこんな所にいるんだろうか。そんなことは頭から吹き飛んでいた。二度と会うことは叶わないと思っていたナナに会えた。その事実が、センラの胸を震わせた。
「センラ、また会えて嬉しい」
「俺も。二度と会えへんと思ってた」
ナナはセンラの記憶の中と何も変わらなかった。こんなに暗いところで、きっと怖かっただろう。センラは、おそるおそるナナの背中に腕を回した。拒まれなかったことにホッとして、センラはようやく呼吸ができるようになった。
「早くここから出ましょう？私、ずっと怖くて」
ナナはセンラを見上げてそういった。当然だろう。こんなに暗い、薄気味悪い場所なんて天界にはなかった。どんなに怖い思いをしたんだろう。
「そうやな。けど俺、仲間と来てんねん。仲間とまず合流してもええ？」
「………私、センラとふたりがいい。ねぇ、だめ？」
その言葉にセンラは、少しだけ違和感を感じた。けれど、100年も会っていなかったからだろうと思い過ごす。
「ねえセンラ。私ね、思ったの。やっぱり、私にはセンラしかいないって」
なんて甘美な夢なんだろう。
センラは思った。
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りひと(プロフ) - 凍華＠ラさん» コメントありがとうございます。みなさまの応援のおかげで、ありがたいことにランキングに載ることができました。今後ともお楽しみいただけるよう更新してまいります。引き続きよろしくお願いいたします。 (2020年5月29日 19時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
凍華＠ラ(プロフ) - よくランキングに載っている作品だったので、少し気になって読ませていただきました。本当に面白くて、一気読みしてしまいました。続きが楽しみです。無理のない範囲での更新、頑張ってください！ (2020年5月29日 12時) (レス) id: 960374666f (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - over the rainさん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけたこと嬉しく思います。今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年5月26日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
over the rain - 続編おめでとうございます。題名に惹かれ読み始めてこらあっという間に3作品目でびっくりです。応援してます。 (2020年5月26日 6時) (レス) id: a4bab14be1 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - ありまさん» コメントありがとうございます。そう言っていただけて嬉しく思います。今後とも、何卒よろしくお願いいたします。 (2020年5月25日 18時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年5月24日 23時
