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長く長くのびた白い砂浜には、途切れることなく波が打ち寄せ、それはここから見るとまるで、幾重にも折り重なった繊細なレースのようだ。
瞳をきらきらさせながら遠くを見ていたAが、やっとセンラを振り返った。
「連れてきてくれて、ありがとうございます」
表情はやはりさほど変わらないものの、声が弾んでいる。
「やろ？」とセンラはいった。
「俺の言うことに間違いはない」
ふふ、と笑みを零してAはまた水平線へと視線を戻した。
はやく、話さなければと思った。
でも、ちょっとでもそれを思い浮かべると、心臓がばくばくいって、息が苦しくなるのだ。
喉が締め付けられて、肝心な言葉が出てこない。
よっぽどこのまま何も言わずに置こうかと思ったが、その途端に志麻くんの顔が浮かんだ。
Aの兄としての顔をした志麻くん。
「あいつのこと、頼んだ」とそういって帰っていった。
「Aちゃん」
掠れた声で呼ぶと、彼女はこちらを向いた。
黒い瞳に、春の空が映っている。
「その…戻るのか？」
A顔から、表情が消えた。
「頼むから、正直に答えてくれへん？」
Aはうつむき、センラの靴あたりを見つめながら、分からないと首を降った。
「わからないって？」
「戻らなきゃ、とは思います。センラさんには、たくさんご迷惑おかけしてしまいましたから」
「迷惑なんかやないよ」
「でも……」
ふと、Aちゃんが顔を真っ赤にしながら志麻くんと話すのを思い出した。
志麻くんは兄として接していたとしても、Aちゃんは志麻くんが好きなのか…？
「志麻くんのほうがいい？」
「…え？」
彼女は、目を見張ってセンラを見ていた。
なにも言おうとしない。
「俺じゃ…だめなん？」
センラはそれが懇願に聞こえないようにと祈りながら言った。
「俺じゃだめなん、Aちゃん」
「ちょっと待ってください、センラさん…」
「俺じゃ頼りない？同じ会社で、恋人だっていうのが恥ずかしい？だから、志麻くんの方がいいん？」
言い出したら、もう止まらなかった。
少しでも口を閉じたら、Aに掴みかかってしまいそうな気がした。
「志麻くんがなんやねん!!」
センラは叫んだ。
「志麻くんより、俺の方がAちゃんが好きや。Aちゃんを1番好きなのは、俺や!」
Aは口を半開きにしてセンラを見つめていた。
センラは肩で息をついた。
ライブ終わりより、息が乱れていた。
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作者名：りひと
| 作成日時：2019年11月3日 23時
