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「あの……センラさん」
ようやく、彼女は言った。
「センラさん、なにか誤解してませんか？」
「誤解って、何がやねん」
センラは誤魔化されるものかと身構える。
「私、志麻さんのこと好きじゃないですよ？」
兄としては好きですけど。と付け足す。
「でも、この間志麻くんと話して顔真っ赤にしとったやん」
「それは……」
「ほら、やっぱりそういうことやん」
「違いますよ!センラさんは、ぜんぜん分かってない！」
彼女は突然、叫ぶように言った。
これほど大きい彼女の声を聞いたのは初めてだった。
1歩近づいて、センラの胸をこぶしでたたく。
「私がずっと、どんな気持ちでいたか知らないでしょう。志麻さんのことは、あの人が兄さんでよかったと思ってます。でも、センラさんは違う!!センラさんといると、自分が自分でなくなってしまう感じがするんです。心で行動してしまう!」
彼女の目じりには、涙が浮かんでいた。
「志麻さんに相談したこともあった!私は愛人の子で、親もいない。心だけで、感情だけで動いていい訳がないでしょう!!」
「そうやね。俺も、嫌っていうほど考えたよ。でも、どうしようもない。俺がAちゃんをこんなに好きなのは、もう誰にも、どうしようもないんよ」
水を浴びせかけられたように、Aは黙りこくった。
「あのとき、俺は大切な人やって、言ったよな」
「………………」
「俺といると、心が動くって言ったよな」
Aは目をつむる。
「それってもしかして、ちょっとぐらいは自惚れてもええってこと？」
彼女は、首を横に振った。
「………そか。そうやね。ごめん」
必死の努力で平気なふりを装おうとしたセンラの耳を、細い声が襲った。
「違うの」Aは消え入りそうな声で言った。
彼女はやっと目をひらいた。
「センラさん、まだ分かってない。ちょっとじゃなくて……もっと、いっぱい自惚れてよ」
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作者名：りひと
| 作成日時：2019年11月3日 23時
