グットモーニング・トウキョウ【センラ】 (ページ42)

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あの日以来。

Aは洗濯物を自分の部屋に干すようになった。

レースのついた下着やうっすら透き通ったストッキングなどが部屋のベランダでひらひらと揺れている様子は、それこそ目がチカチカするほどだった。

いままではそんなこと、感じたこともなかったのに。

でも、そういうことがなかったらきっと、自分の一か八かの告白が、てっきり忘れ去られたか、あるいは冗談として片付けられてしまったのだと思い悩んでいたことだろう。

そのくらい、あれからAのセンラに対する態度は変わらなかった。

4月まで、あと2週間をきった頃だった。
さくらの蕾が大きくなり始め、春の訪れを予感させる、晴れやかな日だった。

年度末ということもあり、仕事は多忙を極めていた。
やってもやっても、書類の山が崩れない。

その上、浦島坂田船での活動も春ツが始まり目の回るような日々だった。

そんなこんなで、センラは連日遅くまで残業し、休みの日は東京へ赴く日々を送っていた。

もちろんそれは事実であるが、本当の理由は別にあった。

Aと2人きりでいることが苦痛だったのだ。

正直言って、センラは自分自身が信用出来なかった。

ちょっとでも薄暗い場所で二人きりになってしまったら、自分がなにをしでかすか自信が持てなかった。

毎日仕事の帰り道は、自分の煩悩と戦った。

思春期の高校生かと自分に突っ込みを入れつながらも、今日も終電ギリギリまで仕事をして家に帰る。

Aは、なにも詮索してこなかったが、何も言わずに書類仕事をセンラの分まで黙ってやるようになった。

それに対しては感謝しかなかったし、いろいろな問題が片付いてから、歌い手のことも打ち明けようと考えていた。

心配事は、それだけではなかった。

ミカミからの手紙の内容は、日に日にエスカレートしてきていた。

もともとはAへ向けられたメッセージがほとんどであったが、最近はセンラへの恨みが綴られることが増えていた。

いままでは人の命を狙うようなメッセージは書いてこなかったミカミが、とうとうセンラを殺すという趣旨のメッセージを寄越すようになったのだ。

さすがに身の危険を感じたセンラは志麻に相談し、ツアー終わりにそのままセンラ宅に向かうこととなった。

明日は日曜。2人とも久々の休みだった。

センラは志麻を連れていくことと到着予定をAに連絡し、スマホをポケットに突っ込んだ。