グットモーニング・トウキョウ【センラ】 (ページ36)

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男の姿が見えなくなって、センラはようやく肩の力を抜いた。

片手に持ったスーパーのビニール袋が急に重さを主張し始めたように感じる。

その一方で、Aはいまだに震えを止められないでいた。

「Aちゃん、帰ろか」

センラは彼女を刺激しないように優しく優しくて言葉をかける。

こくこくと頷く彼女を確認してから、繋いだ手をそのままに足早にマンションへ向かった。

部屋につくと、センラはいつもより念入りに鍵を閉めた。

下を向くAの表情は読み取れない。

「…今日はさきに、お風呂入ってもいいですか」

細い声で言うと、彼女は繋いだ手をほどいて彼と目も合わせず、足早に部屋に入っていった。

彼女がシャワーを浴びているあいだ、センラは夕食の支度をしながらどうしたものかと考えていた。

志麻にも言われていたのだが、彼女は1人で溜め込むタイプの人間だった。

人に頼ることが苦手な彼女であるのは承知の上だが、そこは頼って欲しいと思うのが男ごころなのだ。

ガチャガチャと音がして、浴室の扉が開いた。
Aがバスタオルを肩にかけたまま突っ立っている。

シャワーを浴びていくらか落ち着いたのか、

肩まであるAの髪はまだしっとりとしている。

「髪、そのままにしとったら風邪ひいてまうよ」

髪、乾かそ。ドライヤーを出してソファをぽんぽんをたたくと、彼女は大人しくそこに座った。

ドライヤーのスイッチを入れて、彼女の髪に風をあてる。
センラはゆっくりと彼女の髪を梳いていく。

つけっぱなしだったテレビでは、いま話題のドラマが流れていた。
テレビの中では主人公であろう男が本人らしき男と対峙している。
それを見て、そういえばそろそろ最終回だっけと思う。

そんなことを考えていると、彼女の髪はすっかり乾いていた。

できたで、と声をかける。
ありがとうございます。彼女は小さな声でそういった。

センラはドライヤーを仕舞おうとソファから離れようとすると彼女に呼び止められた。

「どうしたん？」

彼女の横にすとんと腰掛ける。

「センラさん、さっきはすみませんでした」

なにに対しての謝罪なのか。とセンラは思った

「庇っていただいて、彼氏だなんて嘘までつかせてしまって」

ほんとにすみません、と彼女はもう一度言う。

手はかすかに震えていて、目にはうっすらと膜がはっていた。