君のいる世界で【緑】 ページ28
アパートを飛び出すと、目の前の建物を見上げた。
1度だけ行った、うらたさんの部屋を見る。
2階の、奥の方の部屋。
明かりがついていた。
うらたさんのアパートの階段を駆け上がり、インターホンを押す。
「はーい」といううらたさんの声が聞こえて、心拍数が跳ね上がった。
がちゃりと扉が開くと、うらたさんが驚いた顔をしていた。
「え、A？」
「急に、すみません」
「いや、別に、いいけどさ。どうした？」
うらたさんは、「まあ、入れよ」と言って、私を部屋に招き入れた。
「すみません、ありがとうございます」
玄関を入って、うらたさんが扉を閉める。
私は靴も脱がず、玄関に立ったままでいた。
「A？」
動かない私を不思議に思ったのか、うらたさんが首を傾げた。
私は、静かに息を吸って、うらたさんを見つめた。
いつもと様子が違う私に気づいたらしく、うらたさんはぴたりと動きを止める。
「うらたさん、好きです」
遠くで、救急車のドップラー効果の音が聞こえた。
「………え、」
うらたさんは目を丸くして、顔を赤くした。
「え、俺？……まじ？」
「私が嘘いってるように見えますか」
「………見えねえ、けど」
うらたさんはゆっくりと私に近づいて、腕を伸ばした。
私を捕まえて、存在を確かめるように抱き締める。
いつも一言多くて、言葉足らずで、不器用な彼の傍にいたいと思った。
必要なときに、欲しい言葉をくれるうらたさんの優しさが好きだった。
不器用なのに、一生懸命、顔を赤くしながら言葉にしようとしてくれる彼が、どうしようもなく愛しいと思った。
「うらたさんの、そばに居たいです」
「…当然だろ」
うらたさんの額が、私の肩に押し当てられる。
ときおり彼は、ずっ、と肩を震わせて鼻をすすった。
「………うらたさん、泣いてます？」
そう聞くと、肩にゆるく頭突きが降ってきた。
「…うるせぇ。泣いてねーし」
うらたさんは涙声で、ずずっと鼻をすすった。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて彼の顔は見えない。
「すげー、うれしい」
グリグリと額を押し付ける様は、小さい子どもみたいで、思わずふふ、と笑いがこぼれた。
「なに笑ってんだよ」
笑われたのが面白くないのか、うらたさんは俯いたまま低い声でうなった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 241人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りひと(プロフ) - みかんさん» みかん様/ コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです♪今後ともよろしくお願いいたします！ (2020年1月1日 10時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - 完結おめでとうございます！りひとさんの作品大好きです。これからも応援しています、頑張ってください！ (2020年1月1日 9時) (レス) id: 6edfb9ce46 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - しぃさん» しぃ様/コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです！今後とも応援のほどよろしくお願いいたします！またコメントお待ちしておりますね♪ (2019年12月31日 20時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - まつりさん» まつり様/ありがとうございます！新年には新しい作品も投稿してまいりますので、今後ともよろしくお願いします♪またコメントお待ちしておりますね！ (2019年12月31日 20時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - 完結おめでとうございます！とても好きな作品なので2人分のルートを作ってくださり、とても嬉しかったです！他の作品の更新も楽しみにしています (2019年12月31日 19時) (レス) id: 42c92e6201 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：りひと
| 作成日時：2019年12月24日 11時
