秘密22 ページ22
｢まーしぃ｣
｢ん？｣
名前を呼ばれ振り向くとにんまりと笑う坂田の顔が視界に入る。彼はいつもどうり学ランの下にパーカーを着込んでいた。手をヒラヒラさせて俺に近付き、下から覗き込むように話しかけてきた。
クリスマス明けの、子供みたいな瞳だった。
｢俺な、Aとのヒミツ、出来てん｣
｢…へぇ、どんなの？｣
口角を上げるように微笑んだ。内心ばくんと心臓が騒ぎ立てていた。暑くなってきたこの教室のせいか、それとも冷や汗なのか、額からはつぅと汗が零れた。
｢いつもどうり｣を装っていたが明らかに余裕のある笑みの坂田に何かが引っかかる。
｢んー、ナイショ！｣
｢はぁ？気になるっちゅうねん｣
｢えー？だってまーしぃもヒミツあるんやろ？…2人だけのヒミツゴト。やろ？｣
ふざけた声で二人とも会話しているように一見見える。が、人差し指を口元にもってきて少しあざとく笑う坂田の目はピクリとも笑っていなかった。その殺意剥き出しの目に嫌気がさす
そんなことより彼が俺とAのヒミツを知ったような発言か気に食わなかった。どこで知った？その秘密って何？聞きたいことがいっぱいで朝からまだ眠っている脳が追いつかず、頭に黒い泥みたいなものが溜まっていく。頭蓋骨が割れて、頭の皮膚が悲鳴をあげる程に。
｢は、何それ？…Aとの秘密？｣
｢え、知らないフリするんまーしぃ｣
｢…坂田、あの後何やったん？｣
その質問をすると坂田は一瞬眉をひそめた。赤い果実のようなその瞳で俺をゆらりと見つめる。下から見つめていたその体制からぐっと体制を戻した。まっすぐ立つと俺よりも少し高い身長。いつもと違うヒリヒリと肌が痛むような空気感。
彼はいひひと笑い首を傾げた。悪魔のように、蔑むように。
｢まーしぃこそ、何やったん？｣
ぞくり。
風邪のような悪寒と頭のてっぺんから何かが溢れてくるような気がした。
声を荒らげようと思った時教室に眠たげな顔をしたAが入ってきた。坂田はすかさず陽気な声を飛ばした。
さっきの会話の続きを話そうと思ったのに頭が冷えた。｢何やったん？｣の答えに｢何も…｣と小さく声を漏らし否定を伝える。坂田は呆れたような顔を見せてため息を着いた。
…それ、Aに近付くにはまだまだやろ、って顔か？
ギリギリだった脳の神経が切れたような音がした。
｢Aのこと、なぁんも知らんくせに｣
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