秘密15 ページ15
日曜日の朝。
明るく優しい日差しが目に痛々しく刺さる。目眩がする。今日は坂田くんの彼女である。
……今日だけだから、楽しむべきなのか、偽りで過ごせばいいのか、分からない。困ったように頭がフル回転し、頭痛がする。普段の格好でいい、そう思ったのだが変に緊張して調子が狂っているみたいだった。
鏡に映るのは花柄のワンピースの上に白い上着を羽織る人。
(…あほらし)
髪の毛の先を指にまきつけて弄った。どうも自分じゃないみたいで落ち着かなかった__……
「___っ、Aっ?」
「っあ、ごめん」
名前を呼ばれていることに気付いてはっと顔を上げると驚いた様子を見せてその後ふきだすように笑った。その蕩けるような赤い瞳が、美しい。
「…なんかー、ごめんな?」
「な、なにが」
「そんなに好きやない男に…、こう、仮の彼女にされるの…」
「……べつに、いい」
好きじゃない訳ない。ずっと好きだった。好きで居たかった。でも君は振り向いてくれない。
こうして居られることに、感謝するしかない。
ずっとこうしていたい、そう思った。
志麻くんの昨日の苦しそうな声が脳裏をよぎる。
「まーしぃと距離置いたら?」
「え?!なんで…」
突然心が読まれていたかのように志麻くんの話を掘り出した。志麻くんの名が飛び出すと何故かビクリと反応してしまう。その反応を見て少し濁った瞳を見せたがすぐ坂田くんはいつもの笑顔を見せた。
次の言葉はもう用意されているみたいだった。悪魔が手を差し伸べるみたいに、艶やかな赤い唇を言葉の通りに動かした。
「このまま、ほんまに付き合っちゃう?」
私の心を透き通って見つめている。勿論今までずっと欲しかった言葉だった。
でも、どうして躊躇してる?
志麻くんの事を思い出す?
坂田くんは赤い唇がにやりと気味悪く笑う。何かに取り憑かれているのか、悪魔に見える。
「……ええよ、返事は後で!時間、間に合わへん!」
突然手を掴まれ走り出す坂田くん。やっぱり男で、走りは新幹線みたいに早かった。持久力のない私にとって地獄でしなかったが、待ち合わせにギリギリで間に合うことが出来た。
そこには志麻くん以外が揃っていた。心臓を締め付けられるような息苦しさを抑えるように肩を上下にさせて必死に酸素を取り込む。
「坂田のとこの彼女さん?よろしゅうな」
「…まーしぃは?」
「あ、来たで!」
会いたくて、会いたくなかった人が来た。
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