秘密13 ページ13
元々ネガティブな性格だった。幼稚園の頃なんて泣き虫だったし食わず嫌いだったし気が強いタイプじゃなかった。
正直今も変わらないような気がする。たとえどれだけ顔が凛々しく大人っぽくても性格はひん曲げて新しい方向に向けることはできないと思う。
「A、ちょっと話があるねんけど」
坂田くんとの話した日の放課後にちょいちょいと手招きされ、へらへらと締りのない口元で笑う。志麻くんのその慣れた相手にしか出さなそうなその表情を見ると隠し事をしているような後ろめたさが募る。
「…A?」
「あ、今行きます…」
重い足取りで彼に駆け寄った。
******
理科室のしんとした部屋に放棄の当たる音が響く。
「…あー、かったりぃ、」
「なんで私パシられてるんですか」
「あー…本題はねぇ」
思い出したかのように話しかけてきた。ニヤリと艶やかに笑い、机に片手を置きぐっと私に顔を近づけた。もう片手には少し古びた放棄を持つ。
変に違和感がする。違和感というか嫌な予感の方が近いのかもしれない。
「…今度の日曜、俺の彼女役してくれへん?」
バスケットボールがスポンと綺麗にシュートを決めるように私の予感はバッチリ当たってしまった。私は息が出来ないほど体が固くなっていた。罪を犯しているような気がした。
「そんな緊張すんなや、友人の前で彼女の振りしてくれたらええだけ」
「…むり、です」
やっと言えた言葉がこれだった。とても喉が渇いているときにコップに注がれた冷たく甘い水を飲み干すのに似た罪悪感がずしりと頭にのしかかった。
喉に重いなにかがのしかかる。
「……そーゆうの、無理な人?」
「違う、ごめんなさい、志麻くん」
「どしたん。……なぁ、なんか隠しとるやろ」
心細そうな目が私を見つめてくる。
辛かった。
私は悪いヤツだった。
志麻くんの気持ち、見捨てた。
キスしたいとか言ったのに、期待させておいて私は、あなたの友人と、彼女ごっこしてる。
私は彼と目が合わせられなかった。俯いて床だけをじっと見つめた。ぐっとしっかり握りしめていた放棄が手汗でじわりと湿った。この顔の近さのまま彼は声を荒らげた。
「A、」
怒りに任せてドンと机に拳を振り下ろした。志麻くんの目は悲しさが映っていた。突然弱みを握られてロウソクが溶けるみたいに距離が唐突に縮まった。
縮まっただけだ、君のことは、好きでもなんでもない。
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