彼氏に元カノの名前で呼ばれた件について【及川徹】

だ ページ8

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それだけだった。
何を言ってもいつも通りの微笑みを浮かべて、別れたいと言い張った。


「俺は、別れたくない……！」


言っている台詞がまるでどこかのドラマのダメ彼氏のようだと、及川は内心笑う。
今は、くだらないことでも何でもいいから何かを考えていたかった。
考えていないとおかしくなりそうで。


「ダメ。絶対に、別れるの。……私からの、最期のお願いだと思って、さ。これ以外は、何にもいらない、から」

「……百合はずるい、なぁ」


近づくサイレンの音。
グズッと鼻をすすった及川は、とびきりの笑顔で笑った。


「俺も、楽しかった。最期のお願いとか言われたら断れないね。別れよっか。



…………………俺は、愛してるけどね」

「うん。ありがとう、徹」


やっと救急車が到着して。
ストレッチャーで運ばれて行った百合が、二度と徹の名前を呼ぶことは無かった。


「……ありがとう、百合」




瀬川百合 享年 15(高校一年生)

その人柄で皆に好かれ、葬式には多くの人が参列した。

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