余熱 ページ45
side.Tsurime
Aが熱を出した。アバハウスで。
「…これヤバくね？」
神妙な面持ちで体温計を見ている空の手元を覗き込んで、俺も目を丸くした。
「38.9℃………」
ポツリと呟いたのはエイちゃん。
「えぇ、そんなにあるの？」
Aは自分の事なのに体温計の数字を見て驚いて、久しぶりにこんな高いの出たと感心さえしてる。
「これちょっと高すぎるよ。早く家帰って寝た方がいい」
不安そうに呟いたりっくんに「俺送るわ」と車の鍵を取りに行くエイちゃん。
「え？あたし全然大丈夫だよ」
その後を追うように立ち上がったAだが、足元がおぼつかずふらりと傾く。頭から床に倒れそうになった彼女へ俺は咄嗟に手を伸ばした。片手にずっしりと感じる人間の重み。
「あ、ぶな…っ」
しっかりと抱きとめた彼女の体はカイロみたいに熱くて、エイちゃんの服を着たAの髪からは俺達と同じ匂いがした。肌から伝わる心臓の鼓動は異様なほど速く大きい。
そして危ないと思って手を出したは良いが、相手が女の子だった事を忘れてた。直ぐに彼女から離れようと声をかければ、何が面白いのか”うふふ”と笑った彼女は俺の肩に手をかける。
「ごめん、急にくらっとした」
俺に覆いかぶさりぐったりと全体重を掛けるA。彼女が呼吸をするたび、耳の横が、熱い。そして熱を持った彼女はまた動かなくなる。
「…A、起きれる？」
不安になって、俺は彼女の体を軽く揺らした。
「………き」
「ん？」
「きもちわるい……」
「…え？」
苦笑いをした俺。「吐きそう」と聞こえた声。「ちょ、待って」慌ててAを起こそうとしたその瞬間、彼女の体がふんわりと浮いた。
「トイレ行こう」
言ったのは、エイちゃんだ。顔を青白くしたAを軽々と抱えた彼は素早く彼女をお手洗いに連れて行った。
「あいつ、ほんとすげーな…」
微かに聞こえた空の声。俺もそう思った。
耳の端に、まだ彼女の熱が残ってる。何も無かったから忘れてたけど、Aは正真正銘の女の子なんだ。みんなはそれを俺と同じように忘れてたりしないのだろうか。それとも意識しながら日常を過ごして居るのだろうか。妙な感覚に襲われて、俺はそれを掻き消すように「A大丈夫かな？」と空に尋ねたりしてみた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 328人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆき(プロフ) - 久しぶりに神作家さんみつけてとっても嬉しいです！はっぴー！連投失礼しました´`* (2019年1月11日 16時) (
レス) id: 79b287e614 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 数ページだけみてもわかるおもしろさでどんどん読み進めてしまいました！アバンティーズの会話とか、考え方とか実際言いそうだなぁと思って楽しかったです！(*^^*)とてもアバンティーズを愛してらっしゃることが伝わってきて、心が温まりました！展開もとても面白くて、 (2019年1月11日 16時) (レス) id: 79b287e614 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - らぴまる 。さん» 嬉しいです。私もコメントを見るだけで１日ずっとウキウキしてます^ ^ 毎日更新できたらいいなと思いつつも、みんなの言い回しで凄く悩んでいます。こんなこと言わなさそうだなと思ったらまた書き直す…の繰り返しです！でも楽しい！メッセージありがとうございました！ (2017年4月2日 23時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - るなさん» 今までの長編は一人をメインに書いていましたが、今回は四人もいる…(´-`)ということで誰がどのタイミングで何を言うかなぁと考えるのがちょっと大変です。ですが、何故かその中でそら君だけ無駄に使いやすいです！（笑）メッセージありがとうございました！ (2017年4月2日 23時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
らぴまる 。(プロフ) - すごく展開が気になる作品ですね！こちらの作品は1日の終わりのたのしみです！ (2017年4月1日 21時) (レス) id: 68c41e6b9c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：匿名
| 作成日時：2017年3月15日 0時
