てつや、ミスマッチ ページ5
冷えた風が肌を撫でる夜なのに、俺はこめかみから一筋の汗をつぅと垂らした。これでもかってぐらい自転車のペダルを回して、凄い勢いで河川敷に向かっているせいだ。
心臓は、持久走をした後ぐらいドキドキしていた。でもこれが、急いだからなのか妙な緊張感からなのか皆目見当もつかない。
河川敷に繋がる陸上部の練習でもよく来るお馴染みの急な坂を自転車で駆け上がり、のぼり切った先で急ブレーキをした俺は雑草まみれの薄暗い土手を見渡す。どこにいるのか聞くの忘れた…と思った瞬間、視界の隅にちらりとライトが光った。
「てつや〜」
自分よりも先に彼女が俺のことを見つけたらしい。光るスマホの画面をゆらゆらと揺らして、少し離れた階段のところから手を振っているのが見えた。
「……よかった」
沢山の"よかった"が俺を心底ホッとさせる。まず見つけられて良かった。声色を聞く限りそこまで沈んで無いようにも窺える。来て正解だったと自転車を道の隅に停めた俺は彼女の元に早歩きで向かう。近づいたきた俺を見上げたAは「ごめんね」と両手を合わせて気まずそうな顔をしてみせた。
「もう帰るつもりだったんだけど、来てくれてありがとうね」
「いや…全然、いいよ」
言いながら彼女の隣に腰を下ろし、何かあったの?と聞くと、大したことじゃ無いとAは頭を左右に振った。
「…そっか」
「うん。夕日が綺麗だったから」
もうとっくの昔に隠れてしまったであろう西日の方向を見て彼女は呟く。Aがそう言うなら、深入りするのはやめておこう。俺は彼女の横顔から視線を逸らす。
「てつやは何してたの?」
「え?しばゆーとゲーム…」
「タイミング悪く呼んじゃったね」
「ううん…もう目が疲れてきた頃だったから敵を狙いにくいかったんだよ」
我ながら意味の分からない解答をしたと思う。そんな俺の気持ちを察したのか「狙いにくかったの?」とオウム返しをしながらAが笑った。途端に恥ずかしくなって誤魔化すように後頭部を手で掻く。
「ずっとやってたら本当に当たらなくなってくるんよ」
「ならゲームを消す良いタイミングだったってこと?」
「そうなるね」
「そっかぁ、てつやは優しいね」
しみじみと言った彼女に、やっぱり俺は照れ臭くなった。でも特別な返事をする訳でもなく彼女の言葉を受け止めることにした。そして少しの沈黙が俺達の間を通り過ぎた後、ふとAが口を開いた。
「…本当のことを言うとさ」
頷いた俺は彼女の方を見る。話し始めるAは困ったような、でも少しばかり嬉しそうな相反した表情をしていた。
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あおい(プロフ) - 一気見してしまいました!続きが気になります…! (7月29日 19時) (レス) id: 5d8097aa88 (このIDを非表示/違反報告)
こなん - 1番好きな雰囲気のストーリー!続きも楽しみに待ってます!頑張ってください!! (2022年10月20日 15時) (レス) @page14 id: d5939a1a6f (このIDを非表示/違反報告)
あむ(プロフ) - 面白くて切なくて最高です!続き楽しみに待ってます!頑張ってください^_^ (2022年8月15日 15時) (レス) @page14 id: 85ad4508c6 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - くぅかなさん» コメントありがとうございます!そう言っていただきとても嬉しいです。甘酸っぱい学園青春ストーリー!…みたいなのを考えていましたが、昼ドラのような雰囲気になりそうな気配を見せていますね。これからどうなるのか最後まで見守っていただければと思います! (2022年7月7日 9時) (レス) id: c0fa65fbb4 (このIDを非表示/違反報告)
くぅかな(プロフ) - やばい!一気読みしてしまった!続き待ってます! (2022年7月3日 9時) (レス) id: c4e0c26ecd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名 | 作成日時:2022年4月16日 11時