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鏡に映った、水に濡れた男の左腕にはびっしりと埋め尽くされたジショウの痕。
真新しいものから、古いもの。
新しいものの下には古い傷跡が。
いつも長袖のシャツを着ているが、見えないようにサポーターで隠している。
高校の頃に開けたピアスの穴を今になって引きちぎり、膿んで治療代がかかった。
イライラしていたからと言って引きちぎったのは間違いだった。
あの日は本当に血迷った。
家に帰るまで我慢ができなかった。
歯を食いしばって左腕のあちこちから垂れ流れる血を眺めれば良かったものの、無駄な出費が発生してしまった。
今の自分は世の中で言うブラック企業で働いている。
遅刻すれば金を取られ、そう簡単にやめられない。
それに、やっと採用された会社だ。
やめたとしても他の会社が採用してくれるはずもない。
だから、今の会社で我慢して働くしかない。
最低賃金で、残業代もでない。
他の人は完全週休2日制なのに自分だけ週一休み。
そしてそれも出勤してないことになり金は入らない。
自分が自由に使えるお金なんかない。
世の中は理不尽だ。
だからこうやって自分の体を傷つけて自分は生きていると。
そう確信して生きていく他ない。
あの職場に勤務している自分は死人同然だから。
安物のスーツに着替え、いつも通りのセットが入った鞄を背負い、アパートから出た。
鍵を閉め、安物の自転車にまたがり、片道1時間かけて勤務先に向かう。
今は朝の3時半。
会社に着くのは4時半ごろだろう。
まだ外は暗い闇の中。
頼りになるのは自転車のライトと街灯のみ。
スマホなんてもの自分の今の給料では持てず、未だに折りたたみ式の携帯電話だ。
メールも電話もそれだけでできる。
余計なゲームで睡眠時間を削らなくて済む。
『…ふぅ、』
テレビなんかあの部屋にはない。あるのは使ってない冷蔵庫。壊れそうな洗濯機、そして汚いコンロとシンクのみ。
上司がするはずの仕事をしていると、なら上司は何をしているのかと言うと、ずっと携帯をいじり、勤務時間が終わるまでずっと話し、自分に怒鳴り声を上げてくる。
定時を迎えると、そそくさと何もせず帰り、そのまま飲み会に。
そしてまだ自分が残っていると言うのに電気を消して消える。
深夜の二時にやっと明日の会議用の書類が終わった。
一度、嫌がらせでパソコンの中のデータを全て消された。
だから必ず帰る時はパソコンを持って帰るようにした。
体が壊れる。何度もそう思った。
でも壊れることはなかった
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作者名:愛 | 作成日時:2022年10月19日 23時