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先生「うん、傷口も塞がってるし、退院しても良さそうだね」
『ありがとうございました』
巻いていた包帯を外すと、正方形の形のガーゼをお腹に貼り付けた。
先生「数日は安静にしてるんだよ。
塞がってるからって、運動なんかしたら折角塞がった傷が開いちゃうからさ」
『…はい、』
先生「あ、そうだ。
惡空さん、飴舐める？」
『急ですね…』
先生「なんかさ、惡空さんみてると息子を思い出して」
『はぁ、』
そう言いながら、棒タイプの飴を渡された。
口の中に入れると、それはいちご味だった。
先生「助けられなかったんだけどね。
重い病にかかって。手術も手の施しようがなくて。
…亡くなったんだ」
『……』
先生「後悔しないように生きるんだよ。惡空さん。」
『わかりました』
先生「何か怪我したらここに来なね。
治療費、負けてあげるからさ」
『ありがとうございます』
手を振られ、軽く会釈をし診察室から出た。
扉を閉め、自分の病室へと足を動かした。
パキッ、ボリッ、と飴を噛み砕き、近くにあったゴミ箱に棒を捨て、口の中に残った飴を噛み、飲み込んだ。
「ツキシマァ！！」
後ろから大きな声が聞こえ、振り向くと不思議な眉毛をしている男性と、少し背の低いスーツを着ている男性が居た。
「静かにしてください、まったく…」
「惡空が居るぞ！」
「はいはい、また幻覚ですから」
「キェエエエ！！
馬鹿者！見ろ！」
背の低い男性がこちらを向くと、目を点にし
驚いた表情を浮かべた。
まずい、逃げないと。
咄嗟に足が動いた。
「待て！惡空！」
周りの人達が注目する中、非常階段の扉を開け、走って2階から4階まで駆け上がり、自分の病室の中に逃げ込んだ。
誰だ、あれは。
息を整え、ベッドに腰掛けた。
自分を知っていた。
けど自分は知らない。
ならば、前世の記憶というものだろう。
思い出したくない、
覚えていないということは、思い出してはいけないということ。
でも、思い出したら何か変わるのではないか…？
『っ、て…』
チクリ。と痛んだお腹のせいで意識がそっちに持っていかれた。
患者衣を脱ぐと、さっき貼られたガーゼが少し赤く染まっていた。
走ったせいだろうか、また傷が開いたみたいだった。
ため息をつき、気づかれないよう自分の服に着替え始めた。
『…ツキシマ、』
同じだ、会社を辞めた人と。
名前が。
…いやいや、まさか。
まさか…違うよな。
日本の中で何人のツキシマが居ると思ってるんだ。
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作者名：愛 | 作成日時：2022年10月19日 23時
