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花にはそういう優しさがある。
何も語らないけれど、かなしいこころに寄り添ってくれる優しさが。
瑞々しいすがたが憂鬱に墨染まったからだを包んで、少しずつ少しずつ柔らかに色を変えてくれるような、そんな優しさが。
茎が水を吸い上げるようにからからに乾いた気持ちをゆっくり満たしてくれる、そんな優しさも。
意図していないのに今ここにいるのは、
花を買うために、きっとここに導かれたんだ。
きっとそういう縁なんだ。
「…土曜日にいらっしゃるなんて、初めてですね」
店の外でユリのブリキ缶を抱えたままで、作間くんは私を見た。
その作間くんの目は、不思議ないろをしていた。
今まで見た事のない目をしていた。
優しそうで控えめなのは普段と変わらないけれど、いつもとどこかが違うような気もする。
そう思ってから、
…そもそもそんなに注意して彼を見たことすらない、
そうも気付いた。
…振られたから感傷的になっているんだ。ばかだな、私。
そして我に還ってはっとする。
『あ…ごめん、もう閉めるとこだよね⁈』
もう夜8時。
普段はたくさんの花たちがのぞくガラス窓はロールスクリーンがおりて、その端から店内のあかりがほんの少しだけ漏れている。
いつもは店先で溌剌としている焼杉の器のグリーン達もほぼいない。旬のちいさな花束だって。
この白い花屋さんがいつもより簡素だと感じたのは、店を閉める準備をしていたからなんだ。
閉店の時間なのに、私はばかだ。
普段と違うように思えた作間くんの目のいろは、
今頃来るなんて、って非常識な私への非難のいろだったんだ。
そう思うと、本当にかなしかった。
楽しいはずの誕生日に振られたうえに、どこを歩いているかも把握出来ないくらい混乱して、
お店のひとにおとなの気配りすら出来ない。
こんな自分中心のものの見方しか出来ないから、振られたのかもしれない。
かなしくて情けない。私は自分が情けない。
『…ほんとにごめんね。また今度ゆっくり来るね』
申し訳なくて、いたたまれなくて、半分愛想笑い、半分苦笑い。
そんな曖昧な顔で作間くんの横を通り過ぎて、足早に立ち去ろうとした。
「待ってください！」
振り返ると、
作間くんの白い肌と白ユリを抱える力のこもった指先が、駅のライトに照らされている。
私の後ろから聞こえた作間くんの声。
それは初めて聞いた、強い声だった。
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冷麦(プロフ) - bさん» コメントくださってありがとうございます！大好きと言ってくださって嬉しいです。しかもきらきらの形容詞をたくさん使って優しい言葉をくださって…恐縮しきり、です…！本当にありがとうございます！ (2019年8月31日 22時) (
レス) id: 5b6161b271 (このIDを非表示/違反報告)
b(プロフ) - この雰囲気好きだな、と思って読み始めたら、まさかの大好きな冷麦さんの小説と知ってびっくりです。どのお話も美しくて爽やかで清潔な感じの、冷麦さんの書く文章が好きです！楽しみにしています！ (2019年8月31日 12時) (レス) id: 3cd053490c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：冷麦
| 作成日時：2019年8月31日 9時
