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毎週水曜日の夜。
家とは逆側の西口に降り立って、この花屋さんで一輪の花を買って帰るのが習慣になっていた。



特に花に詳しい訳じゃない。
でも見るのは昔から好きだった。
柔らかな花びらの重なりだったり、ぱりっとした葉脈のつやだったり。
いつまで見ていても飽きなくて、
花って可愛くて綺麗だなって、嬉しくて楽しいなって、子供ごころに思っていた。




まだこの街に来た初めの頃、
駅の逆側には何があるんだろうって冒険に来た私は、一目でこの花屋さんを気に入った。


舗道からすぐの歪なかたちのタイルの上にひしめき合う、
濃いブラウンの焼杉で出来たプランターを飾る緑の葉たち。
黒板みたいなプライスカード。
手に取りやすい値段のちいさな旬の可憐な花束が載せられた木箱。


大きなガラス窓から覗くこじんまりした店の中は、
シルバーの曇ったブリキ缶やきらきらのガラスの器に投げ込まれている瑞々しい色とりどりの花が、
歌うように、楽しそうにしていた。
まるで花たちに早くおいで、って誘われているような気がした。

優しくてアンティークな色合いの花が多いのも、
薄い水色のドアも、
クラシカルなレジも、
その後ろの壁にカラフルな異素材のリボンや麻のコードが無造作にぶら下がっているのも、
どれも私の好みだった。


仕事を始めて、少しだけれど自由になるお金も出来るから。
狭いくせに新しいたったひとりだけの部屋に、
この店の花を飾りたい。

新しい環境でわくわくしていた私は、
これからがんばってねって励ましてくれているようなお店に出会えた気がした。



そうして3回ほど通った頃だったと思う。
月水金の午後に新しい花が入荷しています、って静かに教えてくれたのは、この作間くんだった。

確か最初の会話らしい会話だった。

水曜日なら残業がなくて閉店に間に合うようにこのお店に来れるから、それ以降ずっと水曜日に足を運ぶようになった。



上品なアンティークピンクの薔薇だったり、
オレンジの元気で鮮やかなガーベラだったり、
シックで幻想的な薄い赤のダリアだったり、
清楚な淡い水色のデルフィニウムだったり。

その時々で目に留まった花をたった一輪だけ買って、
作間くんに花言葉を教えてもらったり、
必要な水切りや湯上げのやり方を教わったりして、
たくさんの色の花びらに、葉に、香りに見送られて店を出る。


それは一週間に一度の水曜日だけの私の楽しみ。
大切にしている時間だった。



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冷麦(プロフ) - bさん» コメントくださってありがとうございます!大好きと言ってくださって嬉しいです。しかもきらきらの形容詞をたくさん使って優しい言葉をくださって…恐縮しきり、です…!本当にありがとうございます! (2019年8月31日 22時) (レス) id: 5b6161b271 (このIDを非表示/違反報告)
b(プロフ) - この雰囲気好きだな、と思って読み始めたら、まさかの大好きな冷麦さんの小説と知ってびっくりです。どのお話も美しくて爽やかで清潔な感じの、冷麦さんの書く文章が好きです!楽しみにしています! (2019年8月31日 12時) (レス) id: 3cd053490c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:冷麦 | 作成日時:2019年8月31日 9時

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