4話 職員室で先生と ページ5
「えーっと、貴方が今日から転入する、犀川さんね?」
「……」
「はい。犀川Aです」
帝光中学校、職員室にて。私達は、私の新しい担任と言う先生の前に、揃って立っていた。
───否、隠れていた。
「……ええと、こっちまで来て貰っても良いかしら?」
「……」
私は無言で首を振る。
兄は、見知らぬ大人に囲まれた状況の中でも手慣れたように営業スマイルを浮かべていた。もう少し年齢が離れていたら、親子と勘違いされていたかもしれない。
「すみません、先生。妹は、極度の人見知りでして……」
「あら、そうなんですか」
先生は軽く相槌を打った。
私は、凌介の後ろにぴったりと寄り添い、隠れるような形で立っていた。手は、いつになくぶるぶると震えている。凌介が、促すように私の頭を撫でた。
「ほら、A。大丈夫だから。先生の前でくらいちゃんと挨拶しろ」
「……」
「優しいお兄さんですね」
先生は軽く微笑んだ。思ったより外見的にも若そうで、綺麗な人だった。
私は、職員室で自分が他の教師達から注目されているにも構わず、凌介の服にしがみつきぱなしだった。そんな私にも、先生は優しく声を掛けてくれる。
「大丈夫ですよ、Aさん。ここにはあまり人はいないし、見ているのは私だけですから」
「……」
少しだけ、顔を覗かせる。先生と、一瞬目が合った。
「私は、
そう言って、桐島先生は微笑んだ。
「!」
少しずつ、私は凌介の後ろから前に出る。と言っても、顔を覗かせただけで精一杯だった。
凌介が「A、挨拶」と軽く小突いた。
「……そ、の」
「?」
「……さ、さささ犀川、A、です。……よ、宜しく、お願いしま……す」
最後の方は、殆ど早口で言った。言えたと思った途端、急に恥ずかしくなり私はまた凌介の後ろに隠れる。
「よし、ちゃんと言えたな。えらいぞ」と言いながら、凌介はぽんぽんと私の頭を軽く撫でてくれた。目の前の桐島先生は、先程と変わらぬ笑みを浮かべて私を見ていた。
「ふふ、よろしくね、Aさん」
先生の声に、少しばかり気が楽になったような気がした。
……正直、担任が女性という点で安堵した部分もあった。これがもしも男性、しかもかなり強面な人だった場合、私は今頃帰ろうと必死にもがいていただろう。
これも、父の配慮なのだろうか。
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翡翠(プロフ) - モトコさん» ありがとうございます。がんばって更新します! (2018年11月3日 23時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
モトコ(プロフ) - 続きが気になります。更新頑張ってください! (2018年11月3日 23時) (レス) id: e294c9830f (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - ゆっくりノワールクローンNo.1さん» ありがとうございます!これからももっと面白くしていきたいと思います!頑張りますね! (2018年8月14日 23時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくりノワールクローンNo.1(プロフ) - ものっそい好みの作品です!!夢主ちゃん世間知らずで可愛いし間接キス知らないとかもう悶えちゃいます!!これからも更新頑張ってください!! (2018年8月14日 20時) (レス) id: a2e5a81f28 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 彩香さん» ありがとうございます(*≧∀≦*)!!がんばりますね! (2018年8月1日 9時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年7月12日 19時