其の40 ページ50
タクシーは大きなビルの前で停まった。
綺麗な玄関口が見える。ホテルについたようだ。
Aがヤマダを叩き起こしていると、コツコツと窓が叩かれた。ドアを開けてみると、男がひとり立っていた。どうやらホテルの前でずっと待っていたらしい。
「きみが哲人の連れってことでいい?いや本当にありがとねえ、助かったよ」
「電話の……雄平か?」
「正解。後は任せてな。あ、タクシー代は俺がまとめて出すから、きみも早く帰んなよ」
年上らしく穏やかな口調で言って、雄平は運転手に何枚かお札を手渡した。Aは有り難くその申し出を受けて、とりあえずヤマダを起こしにかかる。
「ふわ、ふああっ……着いたん?」
呻きながら起き上がり、ヤマダはふらっと車内から這い出した。慌てて鞄を差し出すと、受け取ったヤマダは段差につんのめって雄平にキャッチされる。Aは思わず苦笑いした。
「大丈夫かよ」
「ぜーんぜん平気やで?え、A、もう行くん」
「おう。明日東京に帰るんだよ」
「へえ、そんなら明日は見にこーへんの?寂しいなあ。俺らは、明後日とその次は京セラでー、その次は岐阜で、その次はー、何処やっけ?」
「神宮。だからすぐ会えるって、哲人。
ごめんな。こいつ、酔うとめんどくさいから」
雄平が困ったように笑う。Aは少し躊躇しながらヤマダの頭を撫でた。さらさらとした感触が伝わってきて、自分から触っておきながらドキリとした。
撫でられていることに気づいたらしいヤマダは、雄平に抱き止められたまま振り向いた。Aに向かってふわりと微笑む。
Aの心臓は大きく高鳴った。無性にその綺麗な顔を、自分だけのものにしたくなった。やっとの思いで押し留まり、名残惜しく髪から手を離す。
「……それじゃ、帰る。ヤマダ、明日しっかりしろよ……雄平もな」
「あ、俺も?ふは、ありがとな」
「おん!明日もホームラン打ったるからなー、みときや、A!」
拳を突き上げるヤマダと雄平を見送って、Aは運転手に実家の住所を告げた。
あの夢物語は、まさにAとヤマダを繋いだ道だったかもしれない。運命、という二文字を脳裏に浮かべ、Aは心底幸せそうに微笑んだのだった。
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続編に行きます。
ここまで読んでくださって
ありがとうございました!
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