検索窓
今日:49 hit、昨日:5 hit、合計:79,909 hit

其の32 ページ42

カランカラン、とベルが上の方で鳴るのを聞きながら、Aはドアを開けてふらふらと階段を下りた。そのまま唸りながら道端に腰掛け、壁に背を預ける。

焼き肉屋を出てから何軒店を回ったか、Aはもう覚えていなかった。


「なんでこんなに飲んだかな……」


時計を見たが、針が歪んでちゃんと見えなかった。深夜であることは間違いないようだ。まるで世界にひとりだけ取り残されたようだった。不安になって思わず立ち上がると、足がふらつく。


「う……気持ちわり……」


身体が重い。思考が今にも止まりそうだった。歩こうにも、地面を踏みしめた途端に均整がとれなくなる。そのままふらふら、ふらふらと、Aは当てもなく歩きだした。途中で物体を見つけては、もたれかかりながら。


「……うえ、う、あ」


吐き気が一気に襲ってきて、Aは思わず上を向いた。喉まで来ていた胃の中の食物が戻っていく。そのままその場にぺたんと腰を下ろして、Aは霞む目でキラキラと輝く街の灯りをぼうと眺める。あまりにも綺麗だった。


「……あ?」


足音と共に突然目の前のキラキラが途切れ、Aは目を瞬かせた。目を凝らし、それが人であることを認識し、話しかける。


「なんか用かよ、わりいけど、後にしろ」

「後には出来へんな。今、ひとりなん?歩ける?」


聞いたことのある、柔らかい声質の関西弁が耳に入り込んできた。「歩ける」と返してAは立ち上がったが、ふらついてその誰かに支えられる。


「あー、ダメやん。酔っぱらってもうてる。どんだけ飲んだん?」

「わかんねーよぉ」

「飲み過ぎやで。道わかる?」

「しるか」

「しるかって……とりあえず移動するで。ここ居ったらあかん」


男の声が頭の中でぐわんぐわん反響する。押されてこくっと頷くと、腕が肩に回された。がっしりした肩だった。


「うわ、服濡れとる。雨止んでんのに……壁に背中ついたりした?」

「した」

「アホやな」

「るせえ」


腕に伝わってくる暖かさに、瞼がどんどん落ちてくる。ほとんど引きずられるようにして、Aはその男に引っ張られていった。

しばらく歩くと匂いが変わった。雨の匂いがする。頭の隅で、公園かな、などと考えて、Aは男に促されるままにそこに腰かけた。

其の33→←其の31



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (112 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
133人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:アヅマ | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年7月24日 15時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。