其の3 ページ5
「Aくん、手伝おか?」
同僚の小林が声をかけてきた。「たのんます、ばやっさん」と有り難くAは応じる。この有り余る本をどうやって並べたらいいか、実のところ彼はとても困っていた。
「おう、フェアは本の陳列場所が命だからネ。しかし野球も特集するのか……それならカープの本ど真ん中に置いて。今年も優勝するから」
「オリンピック特集なんスけど」
「ハハハ、そうやった。でもまあ都内でカープはあんまし売れんよネ。専ら読売かヤクルト。仕方ないけど」
文句を言いつつも、小林はサクサクと配置を決めていく。仕事こそ出来るものの、最低でも年6は球場に出向く熱狂的なカープファンでもある小林。Aよりも五つ年上ながら、目を輝かせて野球を語る姿は子供のようだった。
「おれ野球分からないんで。これも、一応レアというか、あまり開催されてない種目ってテーマじゃないすか。五輪種目としての野球を、どれだけ魅せられんだって思って」
「ははあ、僕に聞こうと思って残してたか」
「まあ。えっと、ポップとか」
「そうやなぁ」と小林は考え込んだ。そんな彼の前に、Aは自分でリサーチした本を出してみる。野球入門の本や、野球をテーマにした小説達。
髪を染め、ピアスを空けながらも、Aの趣味は小さい頃から変わらない。読書だ。今回のフェアでも彼は野球小説を読み込んだ。ルールは未だによく分からなかったが、選手たちや高校球児達に思いを馳せ、本を選んだのだ。
「……やっぱり、侍JAPANのメンバーは外せないでしょ。誠也は勿論、秋山、柳田、山川。うーん、山田哲人も行きそうだなあ。年々進化してるし」
「へえ。可能ならポップ案は雑誌とかから引っ張ってきますけど」
人名が沢山出てきたせいでAは気のない返事を返す。「あ!メッチャ興味なさそ!」と叫び、小林はしばらくAを追いかけ回した。
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