其の２ ページ4
「お、Aくん！お早う」
「……はよっす。できました。こんなもんでどっすか」
Aは余計にふたつも設置していた目覚まし時計のおかげで寝坊もすることはなく、眠い目を擦りながらも無事に職場へたどり着けた。
挨拶してきた上司に作ってきた書類を差し出して、彼はロッカーに荷物を放り込んでからもぞもぞと着替える。
「ふん……ほう……ほほう。いいね。やっぱAくんのセンス最高だね。やっぱり君を雇ってよかったわ」
「ありがとうございます。まあ頑張りましたし」
「だよね！」と笑う上司に苦笑いを返しつつAは左耳のピアスを触る。右と左、二つずつ付けられたピアスは燦然と輝いていた。
ワイシャツの上にエプロンを羽織る。これで着替えは完了だ。
「あっ、店長お早う御座います！Aくんもお早うね！」
「お早う。ハイこれちょうどAくんが仕上げてきたフェアの企画書。ちょっといいかんじだよ」
「なになに？……イイじゃん！任せたのは悪かったけど、こういうの上手いからねえAくん。やっぱだいぶ眠そうだけど。夜番代わったげるわ」
「バレましたか」
「そりゃあね！」
どんと胸を叩いて直属の上司は楽しそうに笑った。このババアには敵わん、そう思ったAだが、褒められたのは嬉しくて少し顔が緩む。
「お早う〜」
「はよーございやーす」
思い思いの挨拶で、他の社員もどんどん出社してきた。Aも手元に返ってきた企画書をキチンと眺めてチェックする。
「さて！全員揃いましたかね。現在開店3時間前、朝の8時です。今日はAくんが考えてくれた、オリンピック特集のフェアを設置します。あとは基本的に昨日の続き。でも臨機応変にね。それじゃあ皆さん、今日も頑張りましょう！」
「よろしくお願いしまーす！」
店長が朝礼を済まし、各自がそれぞれの仕事を始める。Aはふんっと勢いをつけて段ボールを持ち上げ、バックヤードからスペースまでそろそろと運び出した。
さて。Aにとってあまり興味の湧かないオリンピック特集。付け焼き刃で色々学んだものの、どうやって面白くすべきか。
おおよそ書店員らしくない書店員であるAは、スペースの前でピアスを弄りながらふっと微笑んだ。
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