其の19 ページ25
「どんな人!?」
「どういうところが気になってるんですか!?」
二人同時に食いつかれ、一歩後ずさりしたAは、苦い顔で「……笑顔がかわいい」と答える。『気になってる奴』で思い浮かべた男の、当たり障りのなさそうな長所はそこしか思い付かなかった。
「笑顔ですか!いいですね、きっかけになり得ますよ!」
「……気になってるだけだぞ。好きかどうかなんてわかんねえよ」
「いやいや長所が出てきたってことは好きでしょそれは〜」
「嫌いかも、しれねえだろ。好きの反対は無関心って言うし」
そうは言ってみたものの、Aは内心ドキッとした。嫌われていたら嫌だな、となんとなく思ったからだ。Aは自分の心に浮かび上がる不思議な気持ちに首を傾げる。
「まあ気になってる奴は一旦置いといて、Aは恋ってしたことある?」
「ねえな。してみたいと思ってるけどな」
「へえ……じゃあさ、さっきの気になってる奴を頭に思い浮かべてよ」
一応Aはヤマダを思い浮かべる。
彼はユニフォームを着こみ、柔らかく笑っていた。
「その子が人気者だったりしたら、どう思う?」
居酒屋でヤマダが賞賛される場面がよぎった。ヤマダが球場中から期待を寄せられる夢の記憶が鮮やかに蘇った。
「……嬉しいけど、なんかもやっとするな」
「それじゃ……その子が、知らない男とすっげえ仲良さそうに歩いてたら?」
ヤマダはプロ野球選手だから、男ばかりのところに居るのは当然だ。でも、知らない男と歩くヤマダをふと思い浮かべた時、Aの心は少しだけ冷えた気がした。それはすなわち。
「……気に食わねえな。わかんねえけど」
「そっか。じゃあさ、その子がもし、
結婚したら?どう思う?」
「……」
知らない女性の横をタキシードで歩くヤマダ。テレビで報じられる結婚会見。幸せそうにインタビューに答えるヤマダ。世間は一様に彼の結婚を祝福する。
しかし、その想像の中のAは。
心臓を鷲掴みにされたような衝撃の中、呆然と部屋で立ち尽くしていた。
それは、……
「そいつが、そいつが結婚したら、おれは……祝福することは、できねえかもな」
「なるほど。A、それはな。
その子のこと、好きってことなんだよ」
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