夢物語 ページ18
「いけッ！」
ヤマダの初動は完璧だった。一枚目のスナップを綺麗な軌道で荒廃した地の果てまで吹き飛ばしたのだ。少し怯んだものの、スナップは次々と突撃をかけていく。
「ふん！はあ！とお！だあッ！！」
雄叫びをあげながら寸分違わず、あいつは一撃で次々とスナップを果てまで飛ばす。おれは地に臥せったまま、そのバットの動きに見惚れていた。
3枚まとめて片付けたところで、ピタリと攻撃が止んだ。スナップの数はかなり減っていた。
「……もう5枚しかないん？なぁ」
珍しく瞳に挑戦的な光を湛えたヤマダのことばを受けたのか、スナップは固まってボールになった。どうやら勝負をつける気らしい。
一拍置いて凄い速さで飛んできたボールを、ヤマダは捉えた。カーンと大きな音が響き渡り、ボールは直ぐに見えなくなった。
「ホームランやな」
満足げに笑ったヤマダに、立ち上がっていたおれは上から抱きついた。動揺したのか、あいつの心臓の鼓動が一気に速まった。
「どしたん、A……」
「ヤマダ、動くな」
おれはヤマダの肩の向こうに右手を突きだして、1枚だけ残っていたスナップ写真を握り潰していた。悔しそうな声をあげ、怪物は消えていく。気づいていてよかった。あと何秒か遅かったら、ヤマダがどうなっていたか分からないから。
「そこにもおったん？気づかんかった、ありがとうな」
「いや。……悪かった。あんなの、おれが自分で突破するべきだった」
「ええよ。とにかく無事でよかった」
ヤマダはそのまま、おれを強めに抱き締めた。身長は殆ど変わらないのに、おれの身体はあいつに包み込まれた。無性に恥ずかしかった。離れようと身をよじる。
「あかん、A。まだ借り返してないやろ」
「は？借りって……これか？」
「ん。しばらく、そのままになっといて」
ヤマダの優しげな声が耳許を通り、おれは動くのをやめた。訳が分からなかったが、借りだと言われてはそうする他なかった。
「＿＿＿、A」
ヤマダがおれになにかを囁いた。
よく聞こえなかったから聞き返そうとした瞬間に、目が覚めた。
夢でよかったと心底思うほどの恥ずかしい夢だったけど、また振られたというショックはだいぶ薄れていた。
おれもヤマダに何か貢献するかな、寝起きの頭でそう思った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 133人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「プロ野球」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
