其の8 ページ11
「いい席取ったなあ、お前ら〜!」
「あっ、アニキ!久々に来ましたね、神宮!Aさんも連れてきたの、マジナイスっス」
「よう。頑張ってるか」
「Aさ〜ん!会いたかったっス!今からビール持ってきてくれるんで!のんましょ!」
「お前らAさんにルール教える係つけろ!野球観戦を楽しんでもらうぞ!さあスワローズが勝つように頑張って応援しようぜー!」
「おーっ!」
「出来上がってんな……」とAは苦笑いをこぼし、ライト側の外野自由席、フェンスギリギリのイスに腰かけた。隣には66番のユニフォームを着こんだ吟生が、ここ一帯を占めて座る弟分達を見上げて笑っていた。
早くもその日がやってきた。Aは初めて神宮球場に入った。スタンドからの眺めは新鮮で、ほう、と自然に感嘆が漏れる。
「外野いいだろ?プレーは見えづらいけど」
「ああ。結構いいな。……なあ、ユニフォーム着てる奴、多くねえか?あいつらも全員着込んでるし」
「皆着るとスタンドがスワローズの色になるんだよ。お前も貸してやるから」
手渡されたユニフォームは白と紺の縞模様で、裏返すと「1 YAMADA」と書いてあった。ヤマダ、とは紛れもなくあいつのことだろう。1番は確かいい番号だったはずだ。革ジャンの上から羽織り、手渡されたビールをグイッと飲んだ。
「あー……うめえ。んで、その……ヤマダは出ねえのか?」
「哲人は出るに決まってらあ。スワローズでは一番のスターだからな。ファンは多いぜ」
「人気なのか。そりゃそうだな、こんなユニフォーム作られてるくらいだ。しかも1番なんだろ」
吟生が頷くと同時に、アナウンスが流れる。スターティングメンバーの発表が始まった。選手の名前も顔もほとんど知らないAだが、そのたびに流れるファンファーレと大歓声には目を丸くした。
成る程、これは思った以上に面白いとAは思った。
「これどうなってんだ?」
「あ、右側にバックスクリーンあるだろ。それに表示されてるんだよ。ここからだとよく見えねえけどな」
「そうか……ヤマダは?」
「打順は3番だな。あいつはセカンドってとこ守ってんだぜ。ホラあそこらへんな」
吟生の指の先はよく見えなかった。それでも実物のヤマダ、もとい夢の中の男を見られるとあって、Aの高揚は静かに膨れ上がっていた。
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