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夢物語 ページ1

夢の内容をハッキリと覚えていたのは、初めてだった。


おれは夢の中で見たことのないスタジアムにいた。

何故か野球帽を被り、知らないチームのユニフォームを着ていて、バットを片手に持って。

夜のスタジアムがギラギラと照明で照らされていた。
その眩しさにおれは立ちすくんだ。

野球もロクに知らないのにアホかと思ったが、打席に立ってたのはおれじゃなくて、ユニフォーム姿の子供だった。

そこでは子供たちの野球教室がやっていた。

夢の中では、おれは何故か野球の経験者。

知らないルールが口からすらすら出てくる。今となってはもうどんなことを話したのかも思いだせないが、とにかく懸命に野球を教えた。

一通り教え終わると、子供は潮が引くように帰っていった。。


夢の中のおれは誰もいないスタジアムの中央、
ピッチャーの場所の後ろあたりに座り込んだ。

何も映らない電光掲示板を眺めていたら、突然おれの横に人影が腰かけた。


「よ。楽しかったやろ?」


横を見ると、おれと同じ黄緑のユニフォームを着た男が笑っていた。柔らかい笑顔がかわいくて、それでいて顔はイケメンだったから、おれは眉を寄せて応えた。


「や、おれ野球知らねえからわかんねえよ」

「ホンマに?ちゃんと教えとったよ。俺も楽しかったわ。ええ経験した」


声をあげて笑いながら、男は肩と肩が触れるくらいまでおれとの距離を詰めてくる。そのあまりに無遠慮な距離感に、少し尻込みした。


「おい。おれのことカノジョと間違えてないか」

「あん?別にええやん。しかも俺、カノジョできへんし」


そいつは急に真顔になって俺の横で胡座をかいた。おれもなぜかそれに倣った。相変わらず照明がギラギラと光っておれとそいつを照らしたが、気まずさは感じなかった。

少し経ってから、そいつはおもむろに電光掲示板を指差して呟いた。


「なぁ、あれ映ったら面白いって思わん?」

「はあ?じゃあ何が映ったらおもしれえんだ」


そう言い返すと、そいつはにまーっと口角をあげた。
ああコイツ、心底嬉しそうに笑うな、とおれは思った。


「あんなぁ、俺は___」



そこで、目が覚めた。


そいつが最後の最後、
何を言いたかったのかおれは知らない。

でも夢で見た男の顔は、目覚めたおれの脳裏にハッキリと焼き付いていたのだ。

其の1→



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作者名:アヅマ | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年7月24日 15時

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