三通目 ページ5
初めて見た時、死んでいるのかと思った
白い白い雪の絨毯の上、まるで紅で染めたのかのように広がる赤を見て、ヒュっと自分の喉の奥から音が鳴った気がした
「大丈夫ですか....!」
返事はない
歪に折れ曲がった腕に絡みつくような鎖
呼吸は浅く、腹部からは今もとめどなく血が溢れていた
どうすれば良いのか分からない
久しぶりに城下町へ出てきたと思ったらこれだ
部屋からも滅多に出ないような自分が、死にかけの人間をどうこうする方法なんてどうしてわかるだろうか
「....誰か!!!!」
ありったけの力を振り絞って大声を出すと、雪で静まり返った街では思った以上によく響いた
家々の灯りがぽつりぽつりと灯る
抱いている体は体温が逃げていく一方で
雪にさらわれないように抱きしめてやることが精一杯だった
ベタりと血が服にこびりつき、鉄の匂いが鼻の奥にまで漂ってくる
「どうされたのですかそれは....!」
「早く!!人を呼べ!!」
「医者はどこだ!」
騒ぎを聞きつけた住民たちが一人一人と声を張り上げ、静かだった街は一瞬にして騒然となった
「とにかくまずは部屋の中へ....!」
「お嬢様、あとは私たちにお任せ下さい」
「婆やを呼んで!」
婆や、それはAの小さい頃からお世話になっている宿屋の店主だ
優しく温厚な性格をしていて、自分に手紙を書いて送ってくれたりとAのことをよく気にかけてくれている
ちょうど紅の彼が倒れている場所はその婆やの宿に近く、とにかく今は一刻でも早く彼をそこに運び込むしか無かった
曲がった腕、吐いた血液、それと、
「焼けるような.......焦げたような......」
鎖の痕も気になる
旅人だろうか、それならばあのような大怪我、どこで負ったのだろうか
そう見ても戦闘による怪我であった。自らを顧みない、そんな乱暴な戦い方
「彼は一体.....」
運ばれていった道に散らばる血痕を見ながらそう思う
彼の目が覚めた時、話してみたいと思った
見知らぬ人に興味が湧いたのは、本当に久しぶりのことであったのだ。
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作者名:らっか | 作成日時:2022年7月3日 18時