8.時 ページ9
---A side---
“35”
その数字が頭の中に浮かび上がってから
何日がたっただろうか…
その時は、突然だった
？:「おはようございます。相葉さん、今日の午後4時2分の電車に、乗ってください」
少し寂しそうな顔をして
目の前に立つ“くろくん”は言った
その一言で、一瞬にして寝ぼけた頭は覚醒したけれど
これはまた、夢なんじゃないかと
あの時から同じようなシーンを幾度と夢見て
だから今も、また夢を見ているんじゃないかと
そんな俺の胸中を知っているように
くろくんは、静かな瞳で俺を見つめ
？:「残念ながら…これは夢ではありません。」
そう切なげに少し笑った
そう、みたいだね
リアルな感覚は、不確かな希望を消し去るには十分で
いつかこの日が来ることは、分かってはいたけれど
数字が頭の中に現れても、信じられない思いは強くて
こうしてとうとうその日が来てしまっても
やっぱり実感はわかなかった
「そっか…」
宣告をしてくれたくろくんに、そう答えるのがやっとだった
今日の仕事はなんだっけな…
確か、個人の雑誌の取材やCMの会見、最後は5人でのTV収録だった
4時頃は、きっとTVの収録中だな
抜け出すとしたら、その前だ
いつの間にか冷静に考えている自分が、なんだか不思議だ
きっと、物の片付けしたり終活みたいなことをして準備いるうちに
無意識のうちに頭の整理はできていたのだろう
もしくは、信じられないという思いが逆に心に余裕を持たせているのか…
?:「ご安心ください、私が最後までお供いたします。」
考えていた俺は難しい顔をしていたのだろう
くろくんが優しい口調で言った
そんなくろくんに、愛しさみたいな気持ちが生まれて
「うん、ありがと」
きっと冷静でいられるのはくろくんがそばにいてくれることも大きいだろうと
素直に感謝の言葉が出た
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作者名：さとこ | 作成日時：2018年8月8日 23時
