粛々 ページ24
「ふたつ、ほうほうがあります」
洞穴に響く声。暖かそうな毛皮から作られた布をかけられた蛇神様は、まるで正気を失ったかのような顔色をしていた。そこまで追い込まれていただなんて知らなかった。本当に、私は何も知らなかった。一つ目の理由を端的に説明する奏汰さんは少し表情を濁らせた後に私に面と向かって言う。
「…これ、はおすすめしません」
「では、もう一つは？」
これまで自分を卑下にしてきた、私は周りと違う役立たずの憐れな存在であるのだと。私は、役立たずの人間なのだからと。そんな私が、初めて人に必要とされたのが『生贄』だった。意味は知らないが、どうやら人でなくてはならなくて村には私以外に適役がいないからと推薦までされた。喜んで身を差し出そうと思った。私の幸せは、多分それなんだ。誰かが幸せなら、幸せの肉になるのなら鬼でも蛇でも悪魔でも喜んで心臓を捧げよう。そんな覚悟を知って知らずか
「……あなたのうでを、さしだしましょう」
目の色が途端に変わる。
冷気に包まれた社に背筋が凍る。動けない。今試されているのは、覚悟なんて生ぬるいものではない。覚悟を越えた絶対的な運命に対する圧迫感。変えることなど出来ないと言わんばかりに、私は選択の余地すら与えられない。
「いけにえの、『しめい』をはたしましょう」
決して意思など必要ない。
ここでは、神がすべて。人間には語る言の葉すら無いもの。早急に、粛々と本来の形に戻るのだ。人は、いつでも喰われるのだと。
私は、奏汰さんから短刀を受け取り肩に刃先を当てがった。不思議なのは恐怖がなく、何処か安心している自分がいたこと。私はここで初めて人になれるのだ、と。役立たずの命がなにかの足しになるのなら、構わない。
目を閉じたその時、腕を勢いよく掴まれてすぐに目を開けた。
「…なに、してんの……」
汗を滲ませた顔の瞳が薄く開く。
細長いその双眸が私と奏汰さんをとらえた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 800人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
驟雨-ｼｭｳｳ-(プロフ) - 最初、「蛇(ヘビ)」を、「蚊(カ)」って読読み間違えてた…………。あらやだわぁ私、目腐ってんじゃないのかしら。← いや本当に…申し訳ないですごめんなさい！！そして面白かったです！！ありがとうございました！！(´；ω；｀) (2018年3月2日 0時) (
レス) id: f96aa8335d (このIDを非表示/違反報告)
かきのたね(プロフ) - 雪乃さん» こちらにもコメントありがとうございます！！本当に読んで下さり嬉しいです！！ (2018年1月10日 0時) (レス) id: 851af24a7e (このIDを非表示/違反報告)
雪乃 - 完結おめでとうございます！！レオの作品からかきのたねさんの作品が気になったので一通り全種類読み終えました！！妖怪の設定いいですね！セナ可愛すぎる…(*´д｀)他の作品のコメントにもお邪魔させてもらいます。これからも頑張ってください！！ (2018年1月4日 21時) (レス) id: ad27a684eb (このIDを非表示/違反報告)
ほたる - 完結おめでとうございます！！妖怪の設定など面白かったです！！新作も楽しみにしています！！ (2017年11月29日 13時) (レス) id: 836cda0430 (このIDを非表示/違反報告)
かきのたね(プロフ) - 御逗樹さん» ありがとうございます！！そうですね、瀬名大好きです(真顔)でも最近はレオも好きになってきたのでいろんな作品に挑戦したいと思っています！ (2017年11月22日 16時) (レス) id: 927894499b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かきのたね
| 作成日時：2017年11月4日 2時
