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脱走計画の日。
私は、一日中こっそりと窓から空を見つめていた。
林檎のように真っ赤な夕焼け空は、次第に葡萄のように紫色に染まって、やがて闇に包まれた。
まんまるに近い月が、空に瞬く星々をかき分けて南天へ向かって上り始めた。
今が、脱走の時。
研究室を初めて抜け出した。
その先には、細くて暗い、石でできた廊下が続いている。
見たことも来たこともない場所。
扉間はいつも、私に食事を与えるためにこんな所を1日に何度も通ってきていたのか。
身体を壁に添わせるようにして、ゆっくりと歩く。
自分の足音が、いやに廊下に響きわたるものだから、息を殺して、足をそっと運んでいく。
何度も道を間違えながらも、漸くして出口らしき戸を発見した。
古びた小さな戸に、鉄製のノブがついている。
それを掴んでくるりと回すと、涼しい夜風が私の髪をたなびかせた。
目の前に広がるのは、広い広い草原だった。
その向こうに小さな滝が見える。
満月に照らされてきらきらと光る水が、上から下へと流れ落ちていく。
さく、さく、と草を踏み分けながら、滝に向かって歩いていった。
滝の水しぶきは月明かりに照らされて、きらきらと輝いている。
どこからともなく、リンリンと虫のなく声もする。
その眺めの美しさに、思わず息をするのも忘れていた。
ー
どれくらいそうしていただろう。
遠くから人の声が近付いてくる。
私ははっと我に返ると、岩陰に身を潜めた。
背の高い男が、2人。
一方は長い髪を束ねもせずに風に靡かせていて、もう一方は、扉間みたいな、短い白髪。
そう、扉間みたいな…
…扉間?!
私はビクリと身体を震わせると、さらに縮こまった。
扉間と長髪の男の会話が途切れ途切れに聞こえてくる。
扉間が男を、兄者と呼んでいるようだ。
どうやらあれが千住一族の長らしい。
2人の足音がどんどん近付いてくる。
どうしよう。
逃げなければ。
焦った私の足は、しかし動かない。
息を殺しながら、2人がどこか違うところへ行くのを待つ。
「扉間」
ざっ、と長の足が止まった。
心臓の音が、うるさい。
「あそこに誰かの気配を感じるんぞ」
足の裏から、腹から、衝撃が瞬時に全身を駆け巡る。
目の前が真っ暗になって、頭がふらふらした。
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東雲(プロフ) - ifzwegvさん» 年単位の亀更新ですみません…コメントありがとうございます。無理のないペースで更新いたしますので、たまに覗いてみてくださいませ。 (4月10日 12時) (レス) id: 13c0e18287 (このIDを非表示/違反報告)
ifzwegv(プロフ) - 更新されてたー!! 当時から読んでいたのでとても嬉しいです。続きを気長に待ってます!! (4月1日 19時) (レス) @page40 id: e064c3839e (このIDを非表示/違反報告)
玉ねぎ - 続き気になります‼頑張ってください‼ (2022年12月18日 0時) (レス) @page29 id: 76ae9f90b3 (このIDを非表示/違反報告)
東雲(プロフ) - 資格試験が今週でひと段落する予定ですので、終わったらまた2日に1回くらいのペースで更新します(願望) (2022年10月8日 17時) (レス) id: 7383fa8b56 (このIDを非表示/違反報告)
東雲(プロフ) - 黒渦クレナさん» うわー!前作も読んでくださったんですね、ありがとうございます!今プロットを大幅に書き直しているところです。お楽しみに! (2019年5月26日 0時) (レス) id: 3a02b4e62c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:東雲 x他2人 | 作成日時:2018年8月23日 20時