05話 ページ7
胸ポケットから箱を取り、煙草を指に挟む。緑色の瞳がこちらを見つめ、言った。
「火をくれないか」
ライターを差し出す。ありがとうと受け取る指先が、少しだけ触れた。
触れた所が熱を持つ。
指が離れると、急激に冷えたような気がした。
「なんでライター持ってるって思ったの?」
「部屋中に蔓延してる匂いと、ベッドの傍らの灰皿だ」
「よく見てるね」
そういう仕事なんでね、と口角を吊り上げて呟く。
目付きの凶悪さなど忘れるくらいに、悪ガキみたいな笑い方をする男だと思った。
「じゃあ、早速始めようか」
と思ったら、顔つきを改める。綺麗な瞳の鋭すぎる眼光に全身がぞわぞわする。
「今回の事件について、なぜあんなに詳しかった?」
「仕事上調べなくちゃいけなくってさ」
ほう、と独特な相槌を打つ。眉を潜め、険しい表情を浮かべた。
煙草を口から離し、先から出る煙の軌道を描く。……手遊び、というよりは心理を翻弄する仕草の一つか。
「随分と調べるんだな。遺体から出た証拠、現場の痕跡、被害者と容疑者の素性……他にも何を調べたんだか」
相手が焦るように言葉で責め立て、まともに考えさせない仕草を続ける。
それに肩を竦め、それだけだよと言う。
「とりあえず真実を突き止めたかっただけだから」
「警察の邪魔をしようとは……」
「そんなつまんないこと、しねーよ」
時計の針が動く音が直接頭に響いているような錯覚を覚える。
仕方ない、久し振りに緊張する相手を前にしているんだから。
すべてにおいて完璧であることが当然のような。才能と人に愛されてきた、手強いやつ。
そういうタイプは嫌いなのだが、何故だろう。
この男に対して不思議と嫌悪はなく、むしろ好奇心ばかりが増幅していっている。
―――それと、いやらしい欲望。
「秀一」
「……俺は恐らくだが、あんたより歳上だぞ。A」
突然名を呼び、雰囲気が変わった俺を訝しむ。やはり、敏感なやつだ。
ネクタイを緩め、シャツのボタンを開ける。どくどくと破裂しそうな欲望に頬が緩む。
「俺が、どーいう仕事してんのか……魅せてやるよ」
シャツを脱いで、床に落とす。露になった身体を見て、静かに息を詰めた。
「久しぶりに見るつよーい雄で、事情聴取するくらいの時間はあるみたいだしさ」
「あんた……」
「俺の相手、してくんない――?」
背中から胸までを包むようにして彫られた、鮮やかな色の翼。――それを目にしたとき、誰もが喰われると思うらしい。
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