20話 ページ22
「お前も似たようなもんだろ」
と、鼻を鳴らして不機嫌に言う。それに肩を竦め、ショーウインドーに映る冷たい目を見つめる。
ただの人間がする目にしては、暖かさもなければ輝きもない。
かといって、いくつもの修羅場を乗り越えたものかと言われると違うと答える。
その目はただ、無情に人の死を見てきたから凍えている。
「話ってのはなんだ」
「へぇ、わかんない?」
「……話す気がないなら帰るぞ」
そう言って、窓を閉めようと手を動かす。しかし、それを手ではなく言葉が制した。
「五年前にも言ったはずだ、ジン。――此処は俺のシマだってな」
空気が一瞬にして変わる。
肌を焼くような暑さは変わらないのに、体の奥に氷でも閉じ込めているみたいに冷たくなる。
「それなのに最近、おまえらが好き勝手してるって情報が入ったんだよ」
俯き、そうかと呟く。運転席にいる図体のデカい男を一瞥し、目を逸らした。
証拠があるというのにジンは焦らない。運転席の男も、特別反応を見せていない。
否定しないでいるということは、今がまずい状況だと判断していないのか。
……なら、何をまずく思う。
「目的があるのさ。そいつを達成するには少し、おまえたちのシマに邪魔しないといけねぇ」
「東都水族館爆破したろ。あの辺り、俺がプロデュースした店があって、巻き込まれたんだけど」
「そいつぁ悪かったな。いくら払えばいい?」
懐から財布を取り出して、なんてことを言う。その、まったく悪気のない態度に溜息を吐いた。
うーん、と小首をかしげる。正直その店の被害総額はざっと5億くらいするのだが。
「俺、金じゃなくてカラダがいいんだけどなぁ……」
唇を指先でなぞり、甘い声が囁く。妙に艶っぽい仕草に運転席の男が喉仏を上下させる。
それにクスクス笑うと、ジンが男の肩を殴り叱責した。
からからに渇いた喉に唾液を流し込む。そろそろ終わらせたいと望み、言った。
「体で支払ってもらうのはあとにして。ひとまず、事情が知れたからこれまでのことは見逃してやる。――でも」
と言葉を区切り、ガードレールから体を離す。
開けている窓に顔を近づけて、目深に被っていた帽子を上げた。
小さく見開かれた目と視線が交差し、その唇に噛み付くようなキスをする。
強引に唇を奪い、舌を入れてぐちゃぐちゃにかき回す。最後にぺろ、と唇を舐めると耳元に唇を寄せて、
「いつまでも目ぇ瞑ってると思うな。もしその時が来たら……梟の夜に呑まれる覚悟、しておいて損はないからね」
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