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16話 ページ18

「――提案したのは俺だから、何とも言えないんだろーけど」

でもさ、と言葉を区切って言う。

「限度ってもんがあるだろ」

「気持ち良さそうに喘いでたもんだから、てっきり善いのかと」

「喘ぐよ。キモチーぃもん」

痛む腰を擦りながら反省を促す。

どうやらこの男は、気持ちよかったら何でもいいという、獣的本能があるようだ。

しかし、どう足掻いても人間。
体力も減るし、体だって傷つく。

それに、情事を思い出そうとしても前戯しか思い出せず、明らかに記憶がトんでいる。

この絶倫が、と悪態をつく。しばらく俺の罵倒を受け、秀一は疲れたように吐息した。

「――」

「――Aのことを考えなかったのは悪かった。今度から、飛ばない程度にスる」

腰に手を添えて、俺が触れていたところを真似して擦る。

その手つきはまるで撫でるように優しい。

指は骨張っており、皮も分厚く、その感触は文句ばかり思い浮かぶものだが。

なかなかどうして。
心地好いと感じる。

「しばらく会えないのって仕事?」

体中を温めるぬくもりに眠気が襲ってくる。瞼が重くなるのを感じ、本題を口にした。

「そうだ。長期間……いや、無期限か」

「理由、当ててやろっか」

ニッと口角を上げる。それに溜息を吐いて、どうせ正解だと諦めたように呟いた。

その反応を楽しむようにして、ズバリと秀一を指差す。

「潜入捜査だろ?」

ほらな、と言わんばかりに肩を竦める。それが答えだった。

もういいよ、と腰を擦る手に触れる。箱から煙草を取り出して火を点けると、肺に悪い煙を吸う。

うねった癖毛の前髪をいじり、掠れた吐息のような声が仔細を話した。

「その間不用意に親しい人間と関われば、彼らも俺も危ないだろう」

「……気になったこと、言っていい?」

口内の煙を吐いて、秀一を見つめる。相変わらず、鋭い目付きなくせに宝石みたいに綺麗な眼だ。

こちらが見惚れてるはずなのに囚われたような錯覚を覚える。

「それさ、親しいってやつ。俺も含まれてんの?」

からかい口調に尋ねる。前髪から指を離すと、俺の鎖骨……ホクロを押して。

「俺は、親しいやつには目印を付けてある。それは俺や、Aが死んでしまっても忘れないように」

そして安心しろ、と言葉を続けて、言う。

「ただの目印だ。――Aは人と、深くなりたくないんだろう?」

「……ぇ?」


「だから、今までみたいに自由にしてくれたらいいさ。全部終わったら会いに行く」



……それが、秀一と話した最後の会話だった。あいつはまだ会いに来ない。

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作者名:暁の雨 | 作者ホームページ:http:  
作成日時:2019年4月20日 20時

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