学会シーズン ページ14
週明け月曜日
午後のカンファレンスは
緊張感に欠けていた
一番の理由は重鎮
黒崎教授が不在のためだろう
秋は学会シーズンで
佐伯外科でも多くの医局員が交代で
あちこちの学会に出席していた
ただ、それでも他大学と比べるとその数は少ない
外科手術の実技重視の佐伯外科は
どちらかというと古いタイプの教室だ
──外科医は手術ができてなんぼ
その当たり前の考えが
最近では当たり前でなくなりつつある
少なくとも医学部の頂点
教授になるには論文の数が重視されつつあった
最先端の大学病院
例えば日本のトップを自任し
首都東京に君臨する帝華大学では
論文の件数が多い医師が有能だと評され
出世の階段を昇った
一方佐伯外科では
学術研究はあまり重視されていなかった
最近のカンファレンスは活気が失われていた
もともと渡海と羽柴は
カンファレンスには顔を出さないし
高階講師が言ったことに
佐伯教授がコメントをする回数は減った
今や症例検討カンファレンスは
高階講師の独断場の様相を呈していた
そのせいか、高階講師のネーベン
世良の相対的な地位も上昇している気がした
そうしたことに無頓着な世良も
その方面に敏感な
北島の微かな反発の空気を感じるたび
嬉しいのと煩わしい気持ちがごっちゃになって
消化不良になる
秋晴れには程遠い
澱んだ空気が佐伯外科には漂っていた
そんな中、世良は
高階講師のネーベンとして
淡々と症例呈示を進めていた
世良
というわけで、田村さんの食道癌は
中部の気管分岐部まで達している恐れがあります
粘膜下転移の可能性を考えると
拡大切除の臨時適用も視野に入れ
左側臥位開胸アプローチにより
スナイプによる器械自動吻合を行う予定です
手馴れた定時のプレゼンを終え
世良は周りを見回す
反論はない
佐伯総合外科はスナイプの白い銃身に
制圧されてしまったかのようだ
その瞬間、重々しい声が響いた
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作者名：帝
| 作成日時：2018年6月22日 13時
