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◇side
『センラたちいなくなっちゃやだよ…』
「ここにおるよ。」
『…うそだもん、いなくなるもん。』
「センラ、嘘はつきませんよ。」
譫言のようにただ俺を引き止めるだけの言葉を並べるAは珍しくて、しょうにも合わず動揺してしまった。
いつもなら俺が近寄って軽くあしらわれるのが筋なのに。
てかなんやねん。いなくならんっちゅうねん。こんな危なっかしいオヒメサマ置いていけるかって。
……大方、理由は分かってる。
風邪の時こんなにぐずる原因は彼女の両親にある。旦那様、奥様は非常にAのことを溺愛しており、甘やかして育ててきた。しかし、多忙かつ自由な人柄からか家を空けることが多い。だから、風邪を引いたとき基本的にAはこの無機質な部屋に1人っきりだ。
それが無意識的に寂しいんやろなあ。
昔、俺達が中庭から顔を出すとぱあっと笑ったものだ。
令嬢の立ち位置はそんなに生易しいものではなく、精神的に孤独なことが多い。だから、それが顕著に出るのが風邪ひいた時ってわけだ。
必死に我慢してるの俺はほか3人よりはほんの少しだけ長く知ってるから、その分甘やかしてやろうと思ってる。
「抱きついたままでもええから、ずっとここにおるから。」
『…ごめんなさっ…。』
「ええの。今は我慢せんと、いっぱい甘え?誰も見てへんよ。だから早く治していつものお嬢に戻らなな?」
静かに頷いて、首に回された腕は離され、頭を枕に沈めた。ほんの少し濡れた睫毛を拭ってやると、くすぐったそうに身を捩った。
『せんら、てぇまっしろね。』
「まぁ、手袋してますからね。でも、お嬢の方が白いんとちゃいます?」
と、俺の手を取って自分の手と見比べて、首を傾げるけど、やっぱりセンラの方が白いと、何故か満足気に腕を下ろした。
『でもせんらのほうがてがおおきいから、たくさんのものをすくえるね。』
そう切なそうに笑うもんだから、胸がきゅっとなった。儚いその表情に俺はなんとも言えない気持ちに苛まれた。
「お嬢の手からこぼれ落ちたものがあったら俺が代わりに拾うから、なんも心配せんでええよ。」
その小さな手でいくつもの苦労とプレッシャーを抱えているのか、そんな琴線に触れてしまった。俺に出来るのは、きっとそばに居ることだけ。そう思って強く手を握った。
すると、その返答に満足したのかその手のまま静かな寝息が聞こえてきて、ほっと胸を撫で下ろした。
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さくらいろ(プロフ) - over the rainさん» 応援ありがとうございました!長い間何も更新しておらずすみません…これからはちゃんと更新を続けていくつもりですのでまた見ていただけると幸いです! (2020年3月22日 22時) (レス) id: 8627590864 (このIDを非表示/違反報告)
さくらいろ(プロフ) - くらっかーさん» 応援ありがとうございました!ようやく受験が終わったのでこちらの活動の方も再開させていただきます! (2020年3月22日 22時) (レス) id: 8627590864 (このIDを非表示/違反報告)
さくらいろ(プロフ) - 舞花さん» 舞香さん、アカウント変えて気づかないかもしれませんが、リクエストの方了解致しました!私も後々やまだぬきちゃんは出演させる予定だったので参考にさせてもらいますね!ありがとうございます(*´˘`*) (2020年3月22日 22時) (レス) id: 8627590864 (このIDを非表示/違反報告)
舞花 - 受験お互い頑張りましょう!また会いに来ます! (2020年1月1日 23時) (レス) id: 957c180cee (このIDを非表示/違反報告)
over the rain - 受験勉強大変ですよね!首を長くしてお待ちしてます! (2020年1月1日 9時) (レス) id: a4bab14be1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくらいろ | 作成日時:2019年11月4日 0時