オレンジピールの花嫁【浦島坂田船】

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志麻は言いくるめるのが上手。さっきだって本当は自分で食べるはずだったお粥、全部志麻が私に食べさせたし、薬だってぶんぶん首を振ったのに全スルーのにっこり笑顔で飲まされた。

それに従っちゃ私も私だなっと思うけど…。志麻のあの訴えかける子犬みたいな目見ちゃうとどうしても首が横に振れない。


「不貞腐れてんと、はよ寝ぇ？」

『だれのせいだと…。』

「お嬢のためやから。明日には俺の事ぽかぽか殴れるくらいには元気やで。坂田の食った薬は万能やから。」


そう額にかかる前髪を掬いとるように撫であげる。なんでそんな優しい顔するんだろう。菖蒲の瞳が柔らかい光を放って、反射してほわほわとした気持ちになる。睡魔を脳裏に誘い込むように、瞼が重くなる。


『…ふわぁあ。』

「…ははっ、でっかい欠伸やなぁ。……薬効いてきたんよ。寝てええよ。」

『ん…。』


大きな欠伸をからかわれたが、それを返す気力もなく本能のまま思い瞼を閉じていく。



本当に今日は甘やかされた一日、だった。

治ったらどんなお礼しよう。どれだけ感謝を述べて甘やかし返せばいいのかな。私がどんなに高価な物をあげても4人は笑ってくれない。


…きっと、私が笑うだけで4人は笑い返してくれるんだろうな。







.







こわいゆめをみた。


わたしのそばからみんながいなくなるゆめ。







.






「……う……じょう、……お嬢！！」



はっとして、目を覚ますと目の前がぼんやりと霞みがかっていた。冷たいものが伝った証拠に頬もあまつさえ耳まで濡れていた。

どれだけ泣いたのだろう。伝った部分が乾き始めているのにも関わらず未だにボロボロと目の端からこぼれ落ちるそれに嫌気がさす。

かち合ったセンラの琥珀の瞳がゆらゆらと動いている。



せんらだ、せんらがいる。ここにいるじゃん。




「よかった、目ぇ覚めました？泣いてらしたので起こそうと……」



そう言葉を紡ぐセンラを遮って私は屈んで私の目線に合わせるセンラの首筋に腕を回して抱きついた。


『…せん、らだ……やだ、こわかっ……。』


驚いて体を固めた彼は新たに泣きはじめる私を理由も聞かずとんとんと背中を撫でて慰めてくれた。さりげなく、不安定な体制から横から手を入れて支えてくれた。


「だいじょーぶやで。せんらやで。」

『うん、……っ、うん…。』


センラの体温が妙に心地よかった。ただただ背中を摩って安心させようと落ち着いた声色で話してくれるのが何よりも救いだった。

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