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♤side
「お嬢、食べなあかんって…。」
頑なに口を閉じて動かない。ふるふると首を降って目を潤ませる。くっそ、かわええとか思うな俺…。
「はよ良くするためにご飯食べて薬飲んで寝なかんよ?」
まるで子どもに言い聞かせるように、優しく囁く。普段のお嬢なら子ども扱いしないで、なんてお小言が飛んできそうだが、今日はそうもいかない。
うーんと唸る。こんな食べるの嫌がる子やったかな。
ふとお嬢の目線が机に置かれた小包とグラスに向かっていることに気がついた。
「お嬢、もしかして薬が嫌なん?」
『!!…そ、そんなことない…もん。』
気まずそうに目線をそらし、口元をもごもごとさせて俯く。口では否定しているが明らかに顔が、表情が肯定していると言っても過言ではない。
しかし、記憶を辿っても、お嬢がそんなに薬を嫌がった経験はない。何かあったか…?
「薬、だめやったっけ?」
そう思いきって聞いてみると、意を決したように俺の目を見て言葉にしだした。
『まえ、さかたがくれたの、にがくて…。おいしくなかった。さかたがくれたもの、で、まずかったものないから…。』
思わず伸びた手がお嬢の頭の上に乗った。ぐりぐりと撫で回すと、頭の上にクエスチョンマークを乗せた彼女が首を傾げた。
「お嬢は坂田のご飯好きやもんなぁ。…でもな、今回のお粥作ったの坂田やで?食べたないん?」
『うっ、……。』
ふっ、悩んどる悩んどる。
薬は嫌やけどご飯は食べたいんやな。食欲はあるってことやな。それなら大事には至らんやろ。甘いものが好きで、なんでも美味しそうに食べるからこっちまで元気が出るもんだ。忙しくて何も食べられてない時もお嬢が幸せそうに食べてたら満たされるってもんだ。
怪我とか病気とか、なんにも気にせんと、そうやって笑っとってほしいわ、ずっと…。
さらさらとお嬢の頬を撫でて、未だに悩む彼女の顔を覗き込む。どうするか、と問うているのを含めた目で。
『たべる…。』
「お、偉い偉い。」
そう言ってまた頭を撫でてやると猫のように目を細めて笑うから、それもまた可愛くて何度だってしてやりたくなる。
「じゃあ志麻が特別に食べさし…」
『じぶんでたべる!』
「そう言わんと…、あーん。」
小さな抵抗を見せるも、ゆっくりと口を開けて、俺の持つスプーンに乗ったお粥を頬張る。美味しいと、また幸せそうな顔をして笑う。また満たされたような気がした。
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さくらいろ(プロフ) - over the rainさん» 応援ありがとうございました!長い間何も更新しておらずすみません…これからはちゃんと更新を続けていくつもりですのでまた見ていただけると幸いです! (2020年3月22日 22時) (レス) id: 8627590864 (このIDを非表示/違反報告)
さくらいろ(プロフ) - くらっかーさん» 応援ありがとうございました!ようやく受験が終わったのでこちらの活動の方も再開させていただきます! (2020年3月22日 22時) (レス) id: 8627590864 (このIDを非表示/違反報告)
さくらいろ(プロフ) - 舞花さん» 舞香さん、アカウント変えて気づかないかもしれませんが、リクエストの方了解致しました!私も後々やまだぬきちゃんは出演させる予定だったので参考にさせてもらいますね!ありがとうございます(*´˘`*) (2020年3月22日 22時) (レス) id: 8627590864 (このIDを非表示/違反報告)
舞花 - 受験お互い頑張りましょう!また会いに来ます! (2020年1月1日 23時) (レス) id: 957c180cee (このIDを非表示/違反報告)
over the rain - 受験勉強大変ですよね!首を長くしてお待ちしてます! (2020年1月1日 9時) (レス) id: a4bab14be1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくらいろ | 作成日時:2019年11月4日 0時