オレンジピールの花嫁【浦島坂田船】

5.紅の遍き ページ12

志麻に連れられて辿り着いた食堂では、センラが待っていて、｢どこにいたんですか！｣と案の定こっぴどく叱られた。今回は志麻が仲介してくれて助かったけど。


『センラが勝手にいなくなるのがだめなの。』


少々言い合った結果、こう悪態をついてみせると反抗できないセンラはうっと言葉を飲み込んで一方的な私のお願い事に頷いた。

志麻はその様子をハラハラしながら見ていたが落ち着いたセンラにほっと胸をなでおろした。


「坂田に連絡しておきましたよ、ケーキ食べたいって。」

『ほんと！？ありがとう！』


長机の端まで行き、椅子に座るよう誘導されながらそう告げられる。センラに笑いかけると、しかめっ面をしていた顔が少し綻んだ。


「さ、その前にちゃんと昼食は取りましょうね。」


厨房へと繋がるドアからガラガラと配膳ワゴンと共に志麻がやってくる。んー今日もいい匂い。貴族の昼食は3コースが基本、なんて言われてるかもしれなけど、私は2コース分。スープとポワソン(魚料理)くらい。私があまり食べないから。

夜は沢山食べるほうなんだけれどね。フルコース、いけちゃう。だからうらたにしつこく「太りますよ」って言われるの。想像つくでしょう？



『イタダキマス』



“ニホン”ではそういう決まりなんだって前教わった。その話をうらたに聞いた時から、私はお食事の前にそう口にすることが多くなった。

食べ物に感謝することは大切だと思うから。



黙々と食べる様子を後ろから見られながらも、全て完食すると、センラと志麻は手際よく銀の食器やカトラリーをしまっていく。それを横目で見ながら最後に紙ナプキンで口元を拭った。


それと同時に向かいのドアが勢いよく開いた。



『んー？だぁれ？』


志麻も、センラも、特に気にすることなく作業を続けている。特に人の気に敏感な2人が気にしていないってことは殺気のようなものはないってこと。


つまり、知っている人物ってことで……って、



『うわっ！！』


椅子ごと倒れる勢いで飛び込んできた朱色に目をぱちくりさせる。私ごと横で支えてくれたのは志麻で、この“わんちゃん”は特に気にすることもなさそうに頬ずりをする。


「……坂田、重いんやけど…。」

「へ？あっ！ごめんごめん！」


言われて初めてこの状況に気づいて離れる坂田はえへへと特に悪びれもなく笑った。手元に置かれた小さな蓋付きのお皿の中から甘い匂いが漂い、今日の坂田のケーキは…、と期待を膨らませた。

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