14【青く美しい空は白い鳥の寂寥に満ちている】 ページ16
「もう、エルヴィンって人使い荒いよね。巨人の研究してたのに、今すぐ行けって言ったんだよ?あ、なんの研究してたか聞きたい?」
「さっさと用件を言え」
生き生きとした顔つきで話題を持ち掛けるも、分隊長が現れてから不機嫌な兵長はバッサリ切り捨てる。
それにさして気にした様子もなく、残念そうに肩を竦める。背後にある古城を振り返り、言った。
「さっき言った通りだよ。ただ呼んでるだけで、私はなんの用なのかは知らない」
嘘を吐いているようには見えない。吐く理由も聞いた限りでは無さそうに思える。
「そうか」
分隊長の言葉に短く返事をすると、こちらに目を向ける。細い目は相変わらず、獣みたいにギラついていて。
細い腕を胸の前で組み、少しばかり背の高い私を見上げる。
「と言うわけだ。今日の訓練はここで終わる、部屋に戻って休憩でもしてろ」
休みたいのは山々ではあるものの、鍛えたい気持ちがある。なので断らせてもらう事にした。
「うーん……いえ、残って鍛練します」
「本当か?」
「どれだけ疑われてるんだか。本当ですよ、だから残りますね。夕食にはちゃんと顔を出しますから」
苦笑気味にご厚意を断る理由を話すと、頷いて納得してくれる。
話はまとまったと、兵長が分隊長を振り返る。しかし、分隊長はそこにおらず。
「あれ、もしかして君がA・サルバトーレかい?」
「わっ」
いつの間にか整った顔立ちが目前にあった。思わず小さな悲鳴をこぼし、後ずさる。
たとえ誰かと話していたとて、気配に敏感なのだからわかるはずだ。でも、すぐにわからなかった。
やはり、分隊長と言うだけあるのか。いずれにせよ力強い人間は役に立つ。なんだか、賢明そうだけど。
癖となった笑顔を浮かべ、厳かに顎を引く。すると「そっか!」と、明け透けな笑顔を綻ばせた。
そして僅かに焼けている手を差し出し、名乗る。
「私はハンジ・ゾエ。分隊長を勤めてるよ。主に巨人の研究をしてるから、聞きたい事があったら聞いてくれていいからね」
暫し差し出された手を見下ろしてから「よろしくお願いします」と、握手を交わす。
互いの挨拶が終わったのを見計らい、兵長は古城へ向かっていく。それに分隊長も慌てて向かった。
遠ざかる背を見つめ、形だけの敬礼を取る。それから誰もいなくなった訓練場を見渡し、やめた。
風が吹いて、短い髪が揺られる。邪魔な前髪をかき上げると、青い空を見上げた。
「……訓練しよ」
その時初めて一人になって、寂寥を味わった。
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