13【強さとは、生きてから死ぬまで自分を貫いた者を指す】 ページ15
「ぐっ」
苦悶の表情を浮かべ、体がくの字に曲がる。痛みに頬を歪め、しかし反射的に脚を上げ、私の胴体に叩き付ける。
爪先が刃物のように鋭利な気がして、穴が空いたような感覚を覚える。
衝撃と共に彼から距離を取り、後方へ下がる。兵長は、追い掛けてきた。
「しつ、こい!」
そう吐き捨て、顔面に拳を放つ。頬を抉るように深くめり込ませると、美しい顔は流石に歪になる。
首が折れてもかまわない、と言わんばかりに首に力を入れてふっとばされんとする。
兵長の意志の強さに瞠目し、笑う。それは人を小馬鹿にした笑顔ではない。―――好敵を見つけた、餓えた獣の悪辣な笑み。
右の拳がこちらの頬に向かってくる。小さく、しかしその威力は考えるべくもない。
だが敢えて受ける。
口の中が切れ、また血の味が広がった。
痛くて、骨に亀裂が入った音がした。私の拳と比べるべくもない。圧倒的な拳の重さに、異常者の笑みがこぼれてしまう。
同時に羨望の眼差しを向ける。―――これは兵長自身が、産まれ持った身体能力なのだから。
何も努力しないで、悪にも染まらず、惹かれる力に手を伸ばしていない、本当の強さ。
できれば私も兵長のようになりたかった。彼のように純粋な力だけで戦い、生きて死にたかった。
でももう、普通には死ねない。受け入れてはいけない力を身に宿してから、直感的にそう理解した。
きっとこの力は、私が復讐を成し遂げたとて、私を解放してくれやしない。それが、人が手を出してはいけない力を欲した、代償なんだろうから。
「――!」
細い目が、なぜか驚いたように見開く。
漆黒の奥に見えるのは、私の顔だ。
相変わらず気持ち悪い笑顔を浮かべてるだけ。でも―――浅葱色の瞳はひどく悲しげに揺れ、潤んでいた。
途端、拳の力が緩む。緩んだ拳に呆け、真剣にやれと不満を口にしようとして、
「おーい、リヴァイー!エルヴィンが呼んでるんだけどー!?」
発狂的な声を聴いた瞬間、開きかけた口が閉じる。目の前の兵長は「ちっ」と舌打ちをして、拳を引いた。私もそれに従う。
痛む頬を擦り、声の方向へ顔を上げた。その人物はこちらに走ってきている。
ウェーブがかったブルネットの髪を頭上で一つに束ね、ゴーグル的な眼鏡を装着している。
黙っていれば一輪の花のように美しい美人だが、明け透けな笑顔を浮かべてこちらへ来ているので、早くも印象が崩れ始める。
「あれは……」
「調査兵団の分隊長、ハンジだ」
小さな呟きに応じ、疲れたように兵長が言う。もしや、面倒な人なのだろうか。
14【青く美しい空は白い鳥の寂寥に満ちている】→←12【人類最強の実力は何人をも凌駕する】
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