11【胸の内に奮える怒り】 ページ13
「先輩。さっきからこちらを睨んでいる方がいるんですが……お知り合い、ですか?」
女の方を指差し、振り向かせる。それにエレンが呆れたように溜息を吐くと、女を手招きした。
どうやら思っていた通り、女はエレンと知り合いのようだ。あの、あからさまに失礼な殺意は私と兵長だけに向けられていたし。
呼ばれた彼女は大人しくやって来て、エレンの横に並ぶ。そして自然な動きで女の頭に手を乗せ、言った。
「こいつはミカサ、俺の家族だ。悪かったな。変に過保護なんだよコイツ」
その言葉にミカサは眉を顰めた。不機嫌な様子だが表情は崩れず、また美しいと思える。
唇を堅く結び、静かな声音をか細い喉から発する。
「変じゃない。エレンが何もされないか、周りに目を見張っているだけ」
「もうしなくていいって……」
「しない、これからもそうする」
「ミカサ!」
聞き分けのない彼女に声を荒げる。しかし嫌々と首を横に振り、彼の言葉には耳を貸さない。
彼らの煩わしいやり取りは兵長に投げやるとして、気になる点がある。
まず、家族というわりにはどちらも顔が似ていない。
だからと言うのも、結論を急ぎすぎているのだが……にしても似ていないのだから、そう考えるしかあるまい。
本当は血が繋がっていないのだろうか。彼らには何かしら事情があるような気もする。
意外と早くまとまった考えに納得し、意識を三人に戻す。まだ二人はしつこく喧嘩をしていたのか、兵長が苛立っている。
面倒くさそうだしこのまま傍観していたいけれど、しかしこっちは優雅な昼休みにしたい。
「まあまあ、先輩。この後もまだやる事があるんでしょう?早くご飯を食べないと」
宥めるように口を挟むと、一気に顔を青くする。やっと兵長の機嫌の悪さに気が付いたらしい。
「あ、ああそうだな。ほら行くぞ、ミカサ!」
「エレン、まだ話が……」
「いいから!じゃ、じゃあ、兵長、俺達失礼します!」
話を続けようとしていたミカサだが、既に兵長の恐ろしさを知っている彼はさっさと退散したかったようだ。
逃げていく背中だけを見ると、小物感が隠しきれていない。彼は小物というより、大物なのだが。
嵐のように過ぎ去った彼らを見届け、溜息を吐く。それから向かいの兵長を見つめ、直後後悔する。
「―――」
いつも通りの変わらない無表情。だが切れ長の目には怒りが宿っている、明らかに。
ごくりと固唾を呑み、おずおずと食事を再開した。
いくら私でも、兵長のご機嫌伺いは苦手である。
12【人類最強の実力は何人をも凌駕する】→←10【兵長は潔癖症】
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
