prologue,未来の足音 ページ2
燦々と輝く太陽がこれでもかと、綺麗に並んでいる彼らを照り付ける。
長時間立ちっぱなしで、食事も飲み物も与えられず、ただ教官の怒号に耳を傾けるだけ。
「おい、貴様の名前はなんだ!?」
意識が遠退くかと思ったその時、やっと自分の番が回ってきた。
目に毒な教官の顔を凛々しく見つめ、曲がりかけていた背筋を伸ばして、佇まいを直す。
強く握った拳を左胸に当てて「はっ」と一瞬間を空けて返事をする。
「ウォールローゼ南端トロスト区出身、A・サルバトーレです」
すると、それまで静まり返っていた周囲が途端にざわめく。
目の前に立っている教官は特に反応を示さない。家名を聴いて「そうか」と呟く。
鋭い目にAを捉え、問い掛ける。
「貴様はなぜ兵士を志望した?」
「巨人が憎いからです」
「奴らを根絶やしにしようと考えて、か。その為なら、貴様のそのちっぽけな心臓さえ人類に捧げると?」
教官の様子がいまいち引っ掛かるが、今は考えないでおく。
彼の意地悪な質問に瞼を閉じる。
なぜ、そんな事を聞いてくるのだろうと。
他の訓練兵とはまた違うような問い。それは私の家が関係しているからなのか、言及しようがない。
だが、私が巨人へ向ける憎悪は教官の恐喝ごときで諦められるほど、そう簡単に済まないのである。
悩ましげな態度を見せたのち、口角を上げ、言った。
「いいえ、教官殿。―――悪魔にだって捧げる覚悟であります」
薄く瞼を開け、再び教官の顔を見つめる。
彼は呆れたように溜息を吐くと、どこか哀れみを孕んだ眼差しを向けた。
「では、貴様には早々に巨人の餌になってもらおう」
「……それはどういう」
意味ですか、そう口にする前に一人の声が言葉を遮った。
「A・サルバトーレ訓練兵」
低く、澄んだ綺麗な声だ。
声がした方角へ目を向けると、整列している兵士達を遠目に、黒髪の男が立っていた。
儚く輝いている漆黒の髪と、知的な鋭すぎる黒瞳が、美しく整った顔立ちによく似合う。
男は小柄な体格にも関わらず厚い胸板を張り、無愛想に声を掛けてくる。
「話がある。着いてこい」
目付きと態度だけじゃなく、性根までもが悪い男だ。
だがあの男は弄りがいがありそう、と密かに好評価を抱く。
教官を見上げると、顎を引いて許可を下す。驚いていない様子を見る限り、どうやら彼の登場は知っていたらしい。
だから、着いていけばすべての物事に辻褄が合うだろう。
「―――はい、わかりました」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
