迷子のコメット / 6 ページ10
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Aの使っているスマホの機種はAのいる世界軸では大手と言っていい有名企業のものであった。スマホの種類は大体が2種類で、Aはその中でも世界人口の高いりんごをモチーフにした某企業の機器を使っていた。あれだけ浸透していたスマホの機種ですらAが飛ばされた世界では知らない機種というのだ。
Aは視線をさ迷わせながら迅の言葉を必死に飲み込もうとしていた。自分があぶれ者で、そんな何も持たない自分を目の前の青年は救おうとしてくれているのだというのに、今のAには悪魔のようにしか見えなかった。
怖い現実ばかりがAを痛めつける。
「行く宛ないよね、たぶん」
迅の言葉にAは静かに頷いた。
見知らぬ土地でひとり置いてけぼりをくらったAには何も持っていなかった。中学生の所持金なんてたかが知れてるし、Aには働いた経験もない。教養だって中途半端なもので、Aがここを1人で生き抜くとなった場合またあの化け物に踏み潰されてしまうのがオチである。
言葉は通じるのにAの世界の常識や知識は何ひとつとしてこの世界で通じているとは思えなかった。
「おれはAちゃんが知らない世界から来たの信じるよ。だからここで暮らして帰る方法見つけてみようよ」
迅はそう言い頭をもたげるAを見つめた。
迅とてAの身に起こった話は半信半疑ではあったが、Aの挙動や持ち物、Aの泣きそうな顔からは嘘だと思えるものは見当たらなかった。
Aの纏う雰囲気はずっと分からないことに脅えていた。
「わたし、何もありません」
「いいよ。何もなくても」
「迷惑になるんじゃ」
「そんなん気にしないよ。小南も陽太郎も喜ぶよ」
「なんで、」
「ん？」
「見ず知らずの中学生相手にこんなにしてくれるんですか」
「……怖いことは怖くていいんだよ。いい未来は何個あったっていい」
腰の風刃に手を滑らせながら迅はそう返事した。
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作者名：40 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年6月6日 22時
