迷子のコメット / 3 ページ7
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ゆりの持ってきたりんごは本当に美味しく、Aは差し出されたりんごを食べながら感動していた。ベッドのそばに座り、同じようにりんごを食べる小南は「美味しいでしょ」と自慢げに笑った。
その様子を見ていたゆりも胸を撫で下ろし、しばらく3人ともりんごを食べていたが、ゆりは静かにAに向き直った。
「もしよければどうして迅くんに保護されたか教えてくれる?」
ゆりは静かにそう言った。それまでAに色々な話を振っていた小南も口を噤みAを見つめる。
Aにも未だに処理しきれていないことである。通学中に突風が吹き、目を瞑ったが開いた先は最寄りの駅ではない見知らぬ土地で、突然青年が現れ突然出てきた化け物を見て気絶したという話を、いくら目の前にいる優しい彼女たちがそうなんだねと理解してくれるとは思えなかった。
しかし見ず知らずの人間のために甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていたのは、紛れもなくゆりである。
Aは、震える手を隠すように握りしめ、事のあらましをぽつりぽつりと話し出した。
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「はぁ?あんたふざけてる?」
切られたりんごを手に小南は眉を顰めた。Aは突然の敵意の籠った鋭い視線にオロオロと視線をさまよわせ身を縮める。ゆりは小南を窘めるながら、Aに困ったような視線を向けるだけである。
「うそだったらよかったのに、」
Aは滲む視界に、これが夢であればいいのにと願うことしか出来なかった。
小さく呟かれた言葉は静かに部屋に溶けていった。
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作者名:40 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年6月6日 22時