スペースオペラ【WT】 (ページ33)

今日:27 hit、昨日:7 hit、合計:40,305 hit

生かされた冥王星 / 4 ページ33

.

「だって帰りたいでしょ」

その言葉はAが口にしなかったものだった。
帰りたいなんて、希望を持つのが苦しくなる気がしたから捨てたはずのそれを今日会ったばかりの人間にいとも容易く拾われ、あまつさえ大事にしろと返された。

寺島雷蔵という男は人をよく見てる。周りの機微や心象を読むのに長けている。その洞察眼があったからこそ、現役時代攻撃手ランキング上位者に名を連ねる実力を見せつけていた。攻撃手を辞めエンジニアに転身した今尚それは健在であり、寺島は小鍛冶Aという異世界から突然身を落とした少女の内心を察することなんて、寺島からしたら容易いものだった。

「……帰れますかね、私」
「帰ろうと思えば帰れるよ」
「かえり、ます」
「そっか。じゃあ帰るまでよろしくね」

希望への後押しはたった少しの言葉でいいのだ。
背中を押すとか手を引くなんてこと、同じ視界の人間にしかできない。そもそも見える景色の違うAが誰かと寄り添い合えることは無いのだ。

Aは滲む涙を堪えて、震える声で頷いた。

.

.

.