皆既月食の鼓動 / 3 ページ23
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Aはそんな烏丸から視線を一直線に浴び、さらに動きはぎこちなくなる。無理もない。烏丸は顔がいい。数多の女を虜にしてきたその薄いくちびるから、涼し気な目元まで、顔のパーツは周りと変わらないそこに在るべくして収まっているというのに違って見えた。大人びた雰囲気は最初高校生かと思っていたがどうやら同じ中学生だったらしい。Aは前世何をしたらこんな美しい姿で生まれるのだろうと思った。
そんな美少年に見つめられていたのだ。落ち着かない。
Aの心情なんて素知らぬ烏丸は静かに庇護欲を沸かせていた。
「……そういえば検査室に行くんだっけ」
「は、はい」
「なら行こう。たぶん待たせてるかもしれない」
Aは言われるがままに烏丸と共に目的地へと向かう。
まだ数回しか歩いたことの無いその道をたどたどしく歩いていけば、すぐに検査室と横に名札の掛けられた部屋を見つける。そこまでは順調だった。しかし、そのまま入ろうとしたAは、部屋の中からうっすらと聞こえたただならぬ声に一瞬身を引いた。それはAがこの世界に来てから、周りの気配を伺うようになった癖だった。Aは自分が異質な存在なことを知っている。そんな自分を置いてくれる玉狛のひとたちの好意に、Aは感謝と同時に申し訳なさを常に抱えていた。迷惑をかけたくない。その気持ちはAの五感のひとつである聴覚と視覚、そして触覚を敏感にさせていた。顔色を伺う、人の噂話を聞く、身を引く。元々大人しく、その傾向があったAの行動に拍車をかけた現実は、こうして今の目の前の扉の向こうのうっすらと聞こえた声にすら反応した。
「……？どうした」
烏丸が不思議そうに声をかけながらそのまま部屋の前に立つ。
ボーダーの部屋の扉というのは基本的に自動ドアのように、人感感知センサーによってトリガーを持つ人間やボーダー関係者の専用名札を持つ人間にだけ自動的に開くシステムになっている。
Aは専用の名札を、烏丸はトリガーを持っている。
烏丸がその声を聞き拾うよりも先に、扉は勝手に開かれる。Aは表情を曇らせた。きっと自分はまた、この世界のイレギュラーであることを自覚させられるのだと、心の隅で思っていた苦しい事実を受け入れる準備がまだできていなかったからだ。
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作者名：40 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年6月6日 22時
