カノープスが見えない / 3 ページ13
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迅が部屋を出て数分が経ったころ、再び扉が開いた。
Aはびくりと肩を揺らして視線を見やれば、半開きの扉からゆらりとエメラルドの瞳がこちらを見つめている。
暫く双方は何かを話す訳でもなく見つめあったままだったが痺れを切らしたのか、小南は口を開くよりも先に一直線にAの元にやって来た。
「アンタ、カレー辛いの好き?」
「ぇ、」
「辛いの好き?」
「……ちょっとだけ苦手です」
「わかった」
そしてお互いはまた無言の状態に入った。
Aは小南にじぃ、と見つめられ困ってしまった。
先程から粗相をしでかしてしかいない。
小南はつい先程まで自分がここにいることに反対しているような素振りを見せていたというのに、突然辛いのは好きかと聞かれるものだから、Aは小南の質問の意図を汲み取ることが出来なかった。頭の中で何度も噛み砕いて考えるもののやはり、何故そんなことを聞かれたのだろうか、と頭を悩ませるばかりだった。
一方小南はというとAがどれくらいの辛さならいけるのかを考えていた。目の前で縮こまる誰がどう見たって弱々しい少女の舌は玉狛オリジナルのスパイスたっぷりカレーにどこまでなら耐えられるのだろうか。小南はAを受け入れる状態に入っていたのだが、如何せん不器用な2人。すでにすれ違いが起こっていることに互いに気づくはずも無かったのだが、今回ばかりは違い、小南は新しく泣いた形跡のある様子に気づいたのか目をギョッとさせた。
「ってアンタ泣いてたの!?えっ、あ、もしかしてアタシ!?」
「悪かったわよぉ……!」と膝をついてAの目の前で慌てふためく小南にさらにAは困惑した。
この時、Aは小南には出て行けと言われると思っていたし小南はAが自分が泣かせてしまったのだと、お互いがちゃんと話さない限り解決しないすれ違いを起こし続けていた。後に紹介される木崎が様子を見に来るまでこの事故は続くのである。
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作者名:40 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年6月6日 22時