Day 31 ページ32
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クモの巣にかかった蝶を あなたは助けますか？
▶はい
▷いいえ
それは本当に 正しいことですか？
昔、なにかを教えられると必ず「なんで」の質問を繰り返していた。1+1=2になるのはなんで？ 空が青いのもなんで？ 人がいつか死ぬのはなんで？
まだ純粋だったころのわたしは疑問ばかりで自分の答えを持てない、せかいから浮いたみたいな人間だった。
「わたしはちょうちょを助けます、正しいことだと思います」
「(え？)」
ここ……小学校、あ、そうだ。学活の時間だ。なあんだ、これ夢か。授業参観みたいに私が一人で教室の後ろに立っていて、消防士の人と結婚したばかりだった佐伯先生は「立花さんの意見と同じ人はいますか？」ってえくぼが素敵な笑顔で周りを見渡した。
壁に掲示された「わたし・ぼくたちのさくひんコーナー」。クラスメイトが心を込めて描いた「じまんのかぞく」の20枚をぼうっと眺めながら先生の問いかけに挙手する皆の声を聞いていた。まゆちゃんはクラスの人気者だから大半の女子は彼女の意見に賛同する。いたいた、学年が上がるにつれて女王の風格を纏わせるこういう子。
「まゆちゃんの答えまちがってます、俺ならクモを助けると思いまーす」
聖矢くんだ。小学校から高校まで一緒で、中学校から高1までは四年間クラスが一緒だったっけ。運動神経もいいしピアノも上手。定期演奏会のときのサックスのソロ、凄くカッコよかった。
「笹本くんと同じ意見の人はいるかな？」
聖矢くんが伸ばした腕に引き上げられるように次々と挙手する男子たち。
わたしは……？
「……あ」
「女の子たちは蝶を助けたくて、男の子たちは蜘蛛を助けたいのね」
廊下側の一番後ろの席で黒板の「正しいこと」の白い文字に視線を当てたまま、両手をていねいに膝の上においたわたしは口を開けて放心していた。やっぱりどっちの意見にも手を掴まないまま、せかいの真ん中で浮いている。浮いて浮いて浮きまくって、みんなの視界にわたしはいない。
○の境界にも×の境界にも入ろうとしないわたしがみんなから縄跳びやドッジボールとかに誘われるはずがなくて、毎年通知表には内向的な子だと書かれた。
それでもよかった。間違っていると分かっていながら自分の肌に合わない場所に居続けるのがどれどけ怠いことかを本能的に察知していたから。
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作成日時：2020年7月5日 15時
