30.帰界 ページ30
あれから女性は少年を拾い、たくさんの日々を過ごした。
少年は吸血鬼。魔界で厳しい教育をされ、怖くて人間界へ逃げてきたのだ。
でも、女性はそんな少年を怒りはしなかった。ただ優しく、暖かな微笑みで慰めた。
そして、時にはちゃんと教育をして、とても良い母親だった。
「吸血鬼なんだから、血を飲めるようにならなきゃね」
「……む、むりだよ、……おれ、よわいし、……」
「こら。無理なんて決めつけないの。少しずつ練習していきましょ?」
妊娠中だから、そこまで血はあげられない。
でも、妊娠中でも、女性は少年を見捨てたりはしなかった。少しの痛みだって、耐え続けた。
そんなある日。
「……う、うぅっ!……」
「だ、大丈夫ですか!?」
買い物中に倒れた女性。
少年は吸血鬼なので、特定の人間には干渉できない。
そして、初めて感じた。大切な人が苦しむ姿を。
「……そらるさん、」
「……なぁ、もうまかいへかえろ?な?」
そんなとき、浦田と坂田がそらるを呼んだのだ。
二人は自分の意思でそう告げたんじゃない、そらるのお父さんとお母さんがそう言うように命令したから。
「……やだっ、やだやだっ、…おれのおかあさんは、……あのひとで、……でも、おれ、……」
当然吸血鬼なんだから、陣痛なんて知らない。
自分のせいで女性が苦しんだと思い込んでいた。
「……かえろーよ!みんなしんぱいしてるんやで!」
「やだ!やだやだやだ!……しんぱいなんかしてない!おれはここにずっといるの!……」
「……そらるさんがここにいたら、あのひとのめいわくになっちゃうよ!?」
浦田は本で読んだことがあるから、そらるのせいではないと思っていた。
だけど、こうでもしないとそらるは魔界へ帰ろうとしないと察していたのだ。
「……やだ!いきたくない!」
「……いいからついてこいっての!……」
「あ!ちょ!うらたさっ!……」
そらるのあまりの辛抱強さに浦田はイライラし、無理矢理魔法を使ってそらるを連れ出したのだ。
そして数年、そらるは家に閉じ込められたようになり、ずっと引きこもっていたのだ。
「……ふふっ、見て、そらる君、こんなにかわい、…………あれ?」
子供を産んで微笑んだ女性なんて知らずに。
885人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ましゅ - そらる吸血鬼えろるすぎやr((( めっちゃ好きです!! (2022年7月17日 9時) (レス) @page35 id: de60ba5332 (このIDを非表示/違反報告)
蒼也 - 440票目ゲット!シャー↑ (2019年7月15日 23時) (レス) id: 86451e69dd (このIDを非表示/違反報告)
利闇涙(プロフ) - 初コメ失礼します!めっっっっっちゃ感動しました!とても面白かったです!完結おめでとうございます!お疲れ様でした! (2019年5月11日 12時) (レス) id: da6ca6fcda (このIDを非表示/違反報告)
やの(プロフ) - 夜空(主にDS)さん» おぉぉぉぉwwありがとう!!wwあんまりやると怒られちゃうかもだから気を付けてね!w(でも小説の感想だからワンチャン大丈夫かもw) (2019年3月30日 0時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
夜空(主にDS)(プロフ) - うらたん、いい人だったw吸血鬼、萌えた(萌えはてたわ)私も長々とコメしてるやつにちゃんと返してくれるやのん好きよ← (2019年3月30日 0時) (レス) id: 1e511e327c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ